主要ハウスメーカーと有力パワービルダーの前期決算が出そろった。新設住宅着工の減少傾向の強まりを受けて、各社とも販売戸数の減少に直面しているが、そうしたなかで業績を向上させた企業もある。ここでは、その理由を明らかにするとともに、各社が今後の成長、生き残りをかけてどのような取り組みをしているのか確認する。
海外事業で業績アップ
少子高齢化の進行を主な要因として、国内住宅市場は縮小を続けている。【表1】は直近5年間の新設住宅着工の推移を表したものだが、2021年と22年はコロナ禍による「巣ごもり需要」によって2年連続で前年を上回ったが、同需要が一巡した23年と24年は2年連続で減少。24年に至っては、リーマン・ショック以降では2番目に少ない総着工戸数にとどまった。25年1月~4月の累計総着工数は、26万2,337 戸(前年同期1.3%増)と前年同期を上回っているが、これは4月に現行省エネ基準の適用義務化が始まったのに先駆けて、住宅事業者が着工を前倒ししたことが要因と見られ、施行後の4月の総着工は前年同月比26.6%減の5万6,188戸に落ち込んでいる。着工戸数の減少は今後、さらに進行するだろう。
このような状況下で、住宅事業者の業績はどのように推移していたのだろうか。今回、24年度決算を公表している大手7社をピックアップし、【表2】にまとめた。それによると、7社のうち6社が前年同期比で売上高が増加したほか、営業利益についても全社で増加となっていた。このうち、24年3月期に売上高が5兆円を超えた建設業界最大手の大和ハウス工業(株)は、各事業が満遍なく拡大。なかでも、戸建住宅事業は売上高が前年同期比20.3%増の1兆1,445億円、営業利益が同98.6%増の698億円と大幅に伸長した。ただし、これは米国を中心とする海外での販売が好調に推移したためである。【表3】は各社の国内住宅販売戸数の状況を表したものだが、大和ハウス工業は分譲戸建住宅を除くすべてのカテゴリーで前年同期比2ケタの減少となっている。
積水ハウス(株)は25年1月期に前年同期比30.6%増の大幅な増収となり、初の売上高4兆円台を達成した。その主な要因となったのも、米国での戸建販売の拡大だ。具体的には、24年1月に22年度の引渡戸数ベースで全米第11位(9,710戸)の実績がある「M.D.C. Holdings(コロラド州)」を子会社化したことが寄与した。住友林業(株)も24年12月期に前年同期比18.5%増の増収となり、初の売上高2兆円に到達したが、これも米国・オーストラリアの戸建事業が好調に推移したことが主な要因である。そして、大和ハウス工業と同様、積水ハウスと住友林業の両社にも共通するのが、国内市場における販売が減少基調にあることだ。積水ハウスの25年期の戸建販売戸数は注文・分譲を合わせても1万戸に届かず、かつて国内販売でトップだった姿からはほど遠い状況である。
国内販売は低調
ほぼ国内でのみ住宅供給を行っている旭化成ホームズ(株)、セキスイハイム(積水化学工業住宅(株)カンパニー)についても同様のことがいえる。前者の25年3月期は主力の建築請負事業(注文戸建など)のほか、不動産開発事業、賃貸管理・不動産流通事業、リフォーム事業、海外事業において増収を達成。しかし、柱である注文住宅の販売戸数は前年同期比11.0%減少した。セキスイハイムの25年3月期は、固定費の削減とリフォーム事業の強化で営業利益が前年同期比で13.7%増となったものの、売上高が前年同期を若干下回った。
セキスイハイムの1棟当たりの販売単価は25年期に3,700万円となり、これは前年同期比で180万円の上昇である。こうした単価の上昇は、供給する住宅の付加価値提案と、さらに資材価格や人件費の上昇分が反映されており、これも前出の主要ハウスメーカーに共通する動きである。いずれにせよ、1棟当たり4,000万円台に到達しようという主要ハウスメーカーの住宅は、庶民には手が届きにくいものとなっている。
そこで、これまで庶民の住宅ニーズに積極的に対応してきた、パワービルダーの状況についても確認しておきたい。
在庫調整が一段落
パワービルダーの代表格で、国内で最も多くの住宅を販売しているのは、飯田グループホールディングス(株)だ。25年3月期は前年同期までの在庫調整にともなう低収益基調から立ち直り、増収増益となった。これは、エリアの特性や保有在庫状況のバランスを注視しながら、土地仕入・販売を行うなど、エリア戦略を徹底した結果だ。主力の分譲戸建事業における1物件あたりの平均価格は、資材価格や土地価格の上昇分を価格転嫁することで、3,130万円(前年同期比124万円増)となり、販売戸数の減少を補った。なお、グループ会社の業績(売上収益)は、一建設Gが2,902億円(同3.8%増)、飯田産業Gが1,913億円(同3.3%増)、東栄住宅Gが1,479億円(同9.4%増)、タクトホームGが1,276億円(同7.2%増)、アーネストワンGが2,032億円(同1.3%減)、アイディホームが645億円(同6.5%減)となった。
オープンハウスグループは9月期決算であり、今回は参考値として取り上げた。24年9月期は売上高が前年同期比12.8%増の1兆2,958億円となったが、在庫調整による収益性の低下で営業利益が同16.3%減の1,190億円にとどまった。しかし、25年9月期の第2四半期決算は在庫調整が一段落。売上高6,434億3,300万円(前年同期比6.7%増)、営業利益737億7,600万円(同32.4%増)と、収益性の回復が目立っている。とはいえ、ただでさえ資材価格や土地価格が上昇傾向にあるうえ、今年4月には現行省エネ基準の適合義務化が施行されたことから、1物件あたりの単価の上昇は避けられず、大手パワービルダーといえども在庫や価格の調整には今後、相当苦労しそうだ。
住宅大手の生き残り策は?
今後、住宅市場はさらに縮小していくことが確実だが、各住宅事業者は今後の成長および生き残りに向けて、どのように対処しようとしているのだろうか。
第一は米国を中心とする海外事業の強化だろう。大和ハウス工業などはもちろんだが、パワービルダーであるオープンハウスグループも近年は米国でコミュニティ開発を手がけるなど、国内の幅広い事業者が海外市場へと打って出るようになった。
戸建事業においては、主要ハウスメーカーが推し進めてきた高付加価値化、つまりは富裕層に向けた提案強化がさらに進みそうだ。というのも、これまでは首都圏や名古屋圏、関西圏が主要なターゲットであったが、それが福岡などの地方都市圏にも確実に波及しているからだ。その象徴的な事例が、セキスイハイム九州(株)(福岡市中央区、杉江孝夫)が昨年12月に福岡市西区の住宅展示場にオープンした「ザ・デザイナーズハイム」。これまで太陽光発電や蓄電池の搭載などハード面での訴求に強みがあった同社が、グループ内のトップ設計者らとタッグを組んで、より上質な「邸宅」を提案することで、1棟あたり5,000万円を超えるような受注を強化している。

激化する施工人材の獲得競争

その一方で、上質な住宅を供給できるにしても、それがままならない状況が近い将来に到来することが懸念されている。建設・住宅業界では、職方の高齢化や若年就業者の減少が加速しているからだ。たとえば、(株)野村総合研究所の調査によると、大工の人数は15年時点の35万人から、30年には21万人にまで減少するとされている。つまり、今後は施工人材の獲得競争がさらに激化することが予想されているのだ。
すでに、獲得強化を図る動きが始まっており、積水ハウスは子会社を通じて、高校卒業予定者を中心とした住宅建築を担う社員工「クラフター」の積極採用を23年より実施。10年後の33年4月時点で、現状の約3倍となる1,000名体制を計画している。これはいわば「自社大工・職人」に関するもので象徴的だが、協力会社も含めた施工人材の確保の動きは、水面下で強まっている。
【田中直輝】

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