2024年04月20日( 土 )

佐川氏の証人喚問をめぐる論争~福山哲郎参議院議員VS北村晴男弁護士(後)

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青沼隆郎の法律講座 第3回

忘れ去られた法的重大問題

 刑事訴追のおそれとは具体的に何を意味するのか。証言拒否の法的効果とは何かについてまったく議論も理解もされないまま、論評や報道がされていることが実は大問題である。

 前述の通り、佐川氏は公文書改ざんの客観的事実が存在するため、検察から事情聴取を受けることは間違いない。市民団体から告発されている以上、その応答のためにも佐川氏は事情聴取される。

 この検察からの事情聴取を受けることをもって、刑事訴追とは言わない。また捜査の結果、検察が犯罪の嫌疑ありと判断して公訴を提起した場合も刑事訴追とは言わない。

 刑事訴追とは刑事裁判で有罪とされ、確定判決を受けることである。このことをしっかり理解すれば、証言拒否権の意味と、その法的効果が理解できる。

類似の権利―黙秘権―との峻別

 犯罪の被疑者に認められている全面的、かつ包括的証言(供述)拒否権である黙秘権との区別は重要である。今回の佐川氏の証言拒否は、まるで黙秘権の行使そのものであった。証人はあくまで証人であって、基本的には真実義務がある。とくに宣誓した証人には真実義務がある。被疑者が黙秘したり虚偽証言したりしても、それ自体が何ら罪に問われないこととの区別はここにある。

証言拒否権の行使の結果―その法的効果

 佐川氏に対して「証人は本件文書の改ざんを部下に指示しましたか」という質問をした場合、佐川氏は証言拒否権を行使できる。その場合、発生する法的効果とはいかなるものであろうか。

 それは証言拒否の理由、刑事訴追の端緒や証拠とならない効果であるから、証言拒否した行為を有罪の証拠とすることはできないということである。つまり、佐川氏は犯人であることを隠すため証言を拒否したとする有罪推定の禁止である。この結果、佐川氏は有罪とも無罪ともいえない中性の立場が保障されているのであり、それ以上でも以下でもない。 

 証言拒否権は厳格な要件充足の場合にのみ認められ、自らが被疑者となる可能性がある行為や、証言をした場合には、その拒否権の根拠を失い、以後、拒否権は行使できない。

 これが、佐川氏が安倍首相や麻生太郎財務相などについて断定証言した法的効果である。このような視点をまったく欠いた北村弁護士らの言説が謬論であることは明白である。

(了)
【青沼 隆郎】

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)
福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

 
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