2024年03月29日( 金 )

今年も近づく山笠の季節 太閤町割以来の伝統が息づく(後)

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 今年もいよいよ山笠のシーズンが近づいてきた。7月1日のお汐井取りから追い山までの15日間、博多の街が熱く盛り上がる博多祇園山笠。2016年にはユネスコ無形文化遺産に登録され、全国のみならず国際的な注目も高まった山笠。博多祇園山笠振興会・広報担当の正木研次さんに、今年の見どころや山笠の魅力について聞いた。

(聞き手:弊社代表取締役・児玉 直)

  ――一般の方は、山笠というと7月1日のしめ縄張りから15日の追い山までの2週間と思っている方も多いと思います。

 正木 そうですね、あまり詳しくない方からは、「7月は忙しいでしょう」と言われますが、実際は6月1日の総会から活動が始まります。私たち振興会の役員は、山笠のために年間120日は費やしている計算になります。一年のざっと3分の1ですね。市内や県内、県外にも宣伝のために行きますし、道路を使用しますから警察との折衝もあります。

 ――初めての人でもわかるように、山笠の見どころを教えてください。

 正木 7月1日のお汐井取りから15日の追い山まで、たくさんの行事がありますが、13日の集団山見せも見どころ盛りだくさんです。市役所周りのビル街を、山が悠然と通っていく様子は迫力がありますね。歴史の変革が見えるような気がするはずです。それから追い山当日、15日の櫛田入り。櫛田神社の桟敷席で見るのは最高です。ただ桟敷席を前もって購入しなければなりませんが、その価値は十二分にありますね。櫛田入り後、山は細い旧東町筋に入っていきますが、ここで舁き手の声が反響するんですね。この迫力はすばらしい。それから旧東町筋を下っていくと、だんだんスピードが出てきます。それから広い大博通りに出ます。ここまで来ると舁き手も多少疲れてきますし、経験の浅い舁き手はここしか舁けませんから我先に入ってきます。すると、バランスがやや崩れて山が右に左に蛇行します。

 旧奥の堂筋から旧西町筋に入って行くときに、直角にターンする。ここが、鼻取り(山笠の一番棒の先端に取り付けられた「鼻縄」をもち、山笠の進行方向をコントロールする)の腕の見せどころです。どれだけ正確に、90度に曲がれるか。もちろん鼻取りだけではなく、棒鼻の舁手も重要。肩を入れる、肩を余すタイミングですね。

 正木 そして決勝点。最後の力を振り絞って、あと50mで決勝点の看板が見えてきます。もちろんここでみんな山につきたいわけですよ。もう肩の叩き合いで、「代われ、代われ」となります。そして「ここからは交代禁止」という場所に至ると、役員が入ってくる舁き手を制止する。最後の最後は、しっかりした力のある舁き手がついて決勝点に入っていきます。みんな汗と勢水でぐっしょりですから、山全体から湯気がもうもうと立ち上る。これは本当にすごい雰囲気です。ぜひ安全な場所で博多の男たちの熱気を感じていただけたらと思います。

 ――これからの山笠は、博多にとってどういう存在になるでしょうか。

 正木 昨年、富山で全国山・鉾・屋台保存連合会の総会に参加しました。そこでユネスコ無形文化遺産の認定証をいただいたんですが、参加していた他県の祭り関係者に聞くと、やはりユネスコ無形文化遺産への認定は非常に大きかったと言われていましたね。地域や祭りの知名度が上がり、訪れる人がかなり増えたということでした。
 その一方で、どこの祭りも参加者が年々減っているという悩みを抱えていました。舁き手がいない、やる人がいない。祭りを行う回数もどんどん減っていると聞きました。
 しかし、山笠は逆ですね。年々参加者も、見に来るお客さんも増えています。それだけ、街に根付いている祭りだと思います。
 山笠に深くかかわっている人間にとって、山笠は正月のようなものです。1年は山笠で始まり、山笠で終わる。追い山が終わると、その日のうちに翌年の山笠の話を始めますから。「山笠は一回やったら抜けられん」とはよく言いますが、そればかりにかまけていたら、自分の商売がうまくいかなくなる。山笠を一生懸命やるために、商売も一生懸命やろうとみんな頑張っているわけです。そのかわり、家族に負担をかけてしまう場合はどうしてもありますね。地元の我々もそうですが、博多出身で東京に勤めていて、山笠の時期は帰ってくるという人は、有休を全部山笠のために使うわけですよ。でも、それが人生のなかの大きな目標の1つになっているわけですから、山笠をしっかりやるために仕事にも張り合いが出てくる。そういうものだと思います。

(了)
【文・構成:深水 央】

 
(中)

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