【特別対談】福岡・建設業界の今後の行方（前）

日建建設（株）
代表取締役社長　金子 幸生 氏

（株）R.E.D建築設計事務所
代表取締役社長　赤樫 幸治 氏

高騰する福岡の分譲マンション

　──福岡の建設業は、全国平均に比べ活気があると言われています。お2人は事業を通じて現状をどのように分析していますか。

    金子　概ね良好な市場環境にあるといえるでしょう。それは、他のエリアから福岡の市場に参入する企業が増えていることからも明らかです。たとえば当社では、R.E.D建築設計事務所と協力して、分譲マンション「リベール博多駅前」の建設に携わっています。この物件の事業主はSHOWA GROUP（株）（代表：湖中正泰氏）ですが、同社は兵庫県加古川市に本社を構える注文住宅・分譲住宅などを手がける総合デベロッパーです。戸建住宅の主な供給エリアは兵庫県と岡山県なのですが、旺盛なマンション需要がある福岡中心部の市場性に着目し、参入してこられたわけです。

　赤樫　リベール博多駅前は、同社の九州第1号物件です。全94戸が1LDKと2LDKで構成されていますが、上層階2LDK住戸の販売価格は高額になるとのことです。この物件の引き合いを分析すると、なかには実需ではなく投資目的で購入されるお客さまもいらっしゃるようです。このように、投資目的でマンションを購入するというケースが多く見られることも、福岡のマンション市場の好調さと価格の高騰につながっていると考えています。

　──お2人には、福岡の建設業の全体について懸念されていることがありますか。

　金子　天神ビッグバンや博多コネクティッドなどの大規模再開発プロジェクトの進行に加え、福岡市は若者の流入が続き人口増加傾向にあります。そのため、建設活況はしばらく継続するものと見ています。ただ、中長期的には、市場環境の変化が必ず発生します。コロナ禍はもちろんですが、ウッドショックや半導体不足、原油高、建設作業者の人材不足、そして円安と、すでに変化の兆しは見てとれます。また、住宅ローン金利が上昇傾向にありますし、それは福岡においても住宅取得者のマインドを低下させることにもつながりかねず、それもリスクの1つとして注視すべきでしょう。

　当社としては建設工事費をいかに抑え、適正な水準にできるか、日々大変悩んでおります。

    赤樫　福岡の建設業界が活況であることから、設計事務所も業務のボリュームが増大しています。当社は意匠設計を主としており、おかげさまで仕事の依頼を順調にさばけていますが、構造計算を中心に業務を行う事務所のなかには、業務に大きな負担がかかっている事業者も見られます。

　余談ですが、これは姉歯事件（2005年）の後遺症といえます。07年に建築基準法が改正され、建築物には躯体強度を高めることを目的に、それまでより太い柱や梁などが使われるようになりました。行政のチェックに時間を要すようにもなっており、建設活況によりそれがさらに顕著になっています。

　コロナ禍による環境の変化も無視できません。テレワークなどが浸透し、企業やその従業員にとって、天神や博多のオフィスに通う必要性が薄れています。このため、その動きを反映した新たなオフィス提案の在り方が問われています。

（つづく）

【文・構成：田中　直輝】

＜COMPANY INFORMATION＞
日建建設（株）
代　表：金子　幸生
所在地：福岡市中央区六本松3-16-33
設　立：1950年3月
資本金：5,000万円
ＵＲＬ：https://www.nikken-co.jp

（株）R.E.D建築設計事務所
代　表：赤樫　幸治
所在地：福岡市早良区西新4-6-15 ル・リアン西新102
設　立：2009年7月
資本金：100万円
ＵＲＬ：https://www.redoak.co.jp

＜プロフィール＞
金子 幸生（かねこ・ゆきお）
日建建設（株）　代表取締役社長
1968年4月、福岡市出身。西南学院大学法学部卒。福岡地所（株）を経て95年5月、日建建設（株）入社。2003年3月、代表取締役社長に就任。（一社）福岡市建設業協会・会長、（一社）九州住宅産業協会・副理事長などを務める。趣味はゴルフ、ランニング。

赤樫 幸治（あかがし・こうじ）
（株）R.E.D建築設計事務所 代表取締役社長
1993年、立教英国学院（イギリス）高等部卒業。97年、日本大学生産工学部建築工学科神谷宏治・川岸研究室卒業後、（株）穴吹工務店設計部入社。2009年7月に（株）R.E.D建築設計事務所設立。