2024年05月12日( 日 )

近隣自治体との連携も、基山町の協働型まちづくり

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基山ロジインベストメントの物流施設イメージ
基山ロジインベストメントの物流施設イメージ

物流施設や宅地開発進行中

 佐賀県三養基郡基山町は、人口1万7,527人(1月末時点)の小さな町だが、鳥栖市・小郡市・筑紫野市と境界を接するなど、広域経済圏を形成している。

 近年では、鳥栖市の鳥栖JCT(九州自動車道・長崎自動車道・大分自動車道と接続)へのアクセスの良さから、福岡地所(株)による「基山町園部物流計画」など、物流施設の開発も続く。2023年1月には、弥生が丘でマルチテナント型物流施設が着工した。竣工は12月を予定しており、アセットマネジメントは(株)玄海キャピタルマネジメントが手がける。事業主体は、九州電力グループ(九州電力(株)、九電不動産(株))と(株)九州リースサービスの3社共同出資による(同)基山ロジインベストメントだ。設備にはLED照明、人感センサー、節水型衛生器具が採用されたほか、太陽光発電システムを導入するなど、環境や省エネに配慮することで「Nearly ZEB(※)」の認証取得を目指している。

 また、博多駅ほか福岡市中心部までも、JRや九州自動車道の利用で30分程度と通勤圏内にあり、意外と福岡に近い“ニア福岡”としても注目を集める。ファミリー層の移住が進む基山町では、子どもの医療費の完全無償化など、子育て支援が充実しているほか、移住者の受け皿となる宅地開発にも取り組んできた。現在、牛逢地区では15区画分の宅地造成工事が進むほか、夜水地区で32区画、塚原地区で52区画、倉野地区で83区画の、合計182区画分の宅地開発が計画されている。

 基山町は都会と田舎の良さを合わせもつ“トカイナカ”として、大東建託(株)の調査結果では、佐賀エリアにおける「街の幸福度」と「住み続けたい街」ランキングで1位を獲得した。

※Nearly ZEB…省エネ(50%以上)+創エネにより、従来建物で必要なエネルギーの75%以上の削減を実現する建築物。

基山町簡易マップ
基山町簡易マップ

混ざる文化が時代とマッチ

 基山町のまちづくりの特徴は、鳥栖JCTを擁する鳥栖市、商業施設が充実する筑紫野市、味坂スマートICの新設やコストコの開業(24~26年予定)が注目される小郡市といった近隣自治体との協働により、役割を明確化させた点にある。その役割とは、老若男女、多世代が住みやすいまちづくりの推進であり、まちづくりのスローガンとして掲げられた「アイが大きい基山町」にもそれが表れている。

 基山町は、こういった周辺自治体に集積する大型商業施設や総合公園などの普段使いできる場所を、無理に整備する必要がない。このことが観光資源でもある基肄(椽)城(きいじょう)跡などの貴重な史跡や文化財、草スキーや登山で人気の基山(きざん)をはじめとする、豊かな自然環境の保全に寄与している。近隣自治体が備える利便性も生かせる立地特性こそ、基山町最大の武器といえる。

地の利を120%生かした暮らしやすい町

基山町 町長 松田 一也 氏
基山町 町長 松田 一也 氏

    福岡・博多への近さ、活況を呈する開発状況、移住者・ファミリー層の増加による賑わい創出など、非常に勢いがあるように感じられるかもしれませんが、まちづくりの方向性としては都会と田舎の良さが感じられる“トカイナカ”、多世代が長く暮らしていけるコンパクトシティを目指しています。コンパクトシティといっても、たとえば大型商業施設など、今ないものを無理に誘致しようという考えありません。基山町はごみ処理や下水道といった生活インフラ機能の一部を、筑紫野市や小郡市といった近隣自治体との協力によって維持しています。職住近接も、福岡への近さがあり実現できていると思います。基山町が目指すコンパクトシティとは、すべてのものがそろう町ではなく、近隣他市の機能を織り込んだうえでの、地の利を120%生かした暮らしやすい町なのです。

 基山町立図書館(人口2万人未満の町村で貸出冊数全国1位)をはじめとする公共施設、子育て支援(子どもの医療費の完全無償化など)といったサービス面の充実は、町の強みだと思います。この子育て支援は、以前行った町民の皆さんへのアンケート調査の結果を反映したものであり、町内において20~30代のファミリー層が着実に増えていることから、23年度にも改めてアンケート調査を実施したいと考えています。

 また、シニアの皆さんには生きがいをもって健幸長寿に暮らしてもらえるように、庁舎1階に設置した無料職業紹介所に、ミドルシニア窓口を設けているほか、これまでの経験や知識を活用したNPO法人「きやまSGK」等の高齢者団体の活動により、町内におけるコミュニティの維持・形成に尽力していただいています。

 将来的には、企業誘致にも取り組むことで、子どもたちが生まれ育った基山町内でもライフプランを立てやすいように、就職環境を整えていきたいと考えています。就職先は、通える場所であれば、基山町内にこだわりません。他自治体に立地する企業でも大歓迎です。老若男女問わず、誰もが夢を抱いて長く暮らしていける町にするためにも、たとえば空き家と住みたい人との縁結びや、課題解決のための民間企業や各種団体との連携強化を促進できる、そんな出会いに溢れた町へと飛躍していきたいと思います。

基山町長 松田 一也 氏

アイが大きい基山町
アイが大きい基山町

    基山町が注目されるのは、町による新旧住民に向けた、就職・結婚・子育てなど、町民それぞれのライフステージに応じた定住支援策の拡充も大きいが、好循環の根底にあるのは、基山町の「混ざる文化」と呼ばれる、新しいものを受け入れやすい文化的土壌だろう。たとえば、飛鳥時代に太宰府を守るために基山につくられた日本最古の山城・基肄城は朝鮮式が採用されているほか、江戸時代には対馬藩宗家の領地として統治されたこともあり、大陸との交易が盛んだったとされる。

 このように、基山町は新しいものと旧(ふる)いものが混ざり合う“新旧混淆”によって躍進を遂げてきた町であり、その特性は多様性の受容が求められる現代社会にもつながるものだ。基山町による協働型まちづくりは、地方再生に向けたモデルケースとしても注目していきたい。

【代 源太朗】

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