2024年05月13日( 月 )

【熊本市長インタビュー】都会と田舎をベストミックスした上質な生活都市へ

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

熊本市長 大西 一史 氏

道路ネットワーク充実に加え、都市交通のベストミックスへ

熊本市長 大西 一史 氏
熊本市長 大西 一史 氏

    ──市内の交通インフラ整備の現状と、今後の方針についてはいかがですか。

 大西 ご承知のように、熊本市では交通渋滞が大きな課題の1つとなっています。全国の三大都市圏を除く政令指定都市のなかで主要渋滞箇所数がワースト1という不名誉な状況であり、市民が生活するうえでの快適さを損なうだけでなく、経済活動の足かせにもなっています。また、熊本地震の際に九州自動車道が寸断されて物資の輸送や人の移動に大きな支障が出たことで、道路ネットワークの脆弱性を改めて感じました。現在、隣接する菊陽町でTSMCの第1工場の建設が進んでいますが、半導体産業などの産業集積を周辺エリア一帯で進めていくためにも、今後は物流においても人流においても、安定的な道路ネットワークの構築が急務だと考えています。

 そのため現在、熊本都市圏においては「熊本都市圏都市交通マスタープラン」に基づいて、2環状11放射道路の道路ネットワーク整備を進め、交差点改良を含めて少しずつ充実を図っているところです。また、熊本県とともに「熊本県新広域道路交通計画」を策定し、市の中心部から高速道路ICまで約10分、熊本空港まで約20分で結ぶ「10分・20分構想」を掲げ、現在3つの新たな高規格道路の検討を進めています。加えて、中九州横断道路や九州中央自動車道などの県外とつながる広域道路ネットワーク整備も、今後さらに進んでいきます。これから10年後、20年後には、こうした市内外での道路ネットワーク整備もある程度完了していくことが見込まれますので、地理的に九州の中心に位置する熊本市のポテンシャルは、今以上に高まっていくのではないでしょうか。

 一方で、抜本的な課題として、自動車交通への依存度が高すぎるという現状があります。そのため、公共交通を含めて全体をリバランスしていこうという政策も進めています。2021年4月に始まったバス事業者5社による共同経営は全国で初めての事例ですし、現在はAIデマンドタクシーやシェアサイクルの実証実験も行っています。また、市電の延伸についても検討を再開しました。

 このように、道路ネットワークの充実だけでなく、全体としての都市交通の最適化──いわゆるベストミックスを進めていくことで、熊本市のポテンシャルをさらに引き出していこうとしているところです。

点から線、線から面へ 人流や賑わいを創出する

熊本城    ──中心市街地の活性化については、いかがですか。

 大西 熊本市では、熊本城のすぐ眼下に形成されている下通や上通をはじめとした古くからの繁華街に加えて、近年では熊本駅周辺での整備も進んでおり、中心市街地としての2つの大きな核が形成されている状況です。ですが、2拠点間が約2kmとやや離れていることもあり、中心市街地全体の賑わい創出のためにも、ここをいかに有機的に結び付けて人の流れを生み出していけるか、そうした施策が非常に重要だと考えています。

 たとえば現在、2拠点間を直につなぐ「まちなかループバス」や、先ほどもお話ししたシェアサイクル、昨年実証実験を行った電動カート「グリーンスローモビリティ」などの“ちょい乗り”によって、2拠点間の人の流れを誘導する試みなどを行っています。また、2拠点間のちょうど中間くらいに位置する新町・古町などの城下町地区を中心に「くまもと歴史まちづくり計画」を進めており、古い街並みの保存や町屋のリノベーションなどでエリア内に新たな魅力を創出しようとしています。これにより2拠点間のハブ的な場所として城下町地区の魅力を高め、それぞれの点を線でつなぎ、やがて面として人の流れや賑わいが生まれていくような、そうしたまちづくりを進めていきます。

 こうした2拠点間の人の流れの誘導のほか、街中の活性化のための施策として「まちなか再生プロジェクト」も進めています。これは福岡市の「天神ビッグバン」を熊本版にアレンジしたような施策で、老朽化したビルを建て替える際に容積率割増や高さ基準の特例承認、財政支援などのインセンティブを付与することで、公開空地の確保などによる防災機能の強化や、上質で魅力的な都市空間の創造などを図っていこうというものです。2030年3月末までの10年間での建替え目標は100件ですが、現在は建築計画を含めて23件が進んでおり、このままのペースで行けば十分達成は可能です。このように現在、中心市街地のさらなる活性化に向けては、ソフトとハードの両面から、さまざまな取り組みを進めています。

多様な価値観を満足させ、Well-beingの向上に寄与

 ──最後に、目指すべき熊本市の将来像についての考えをお聞かせください。

 大西 熊本市は、政令市でありながらも豊かな自然環境に恵まれており、農業産出額は政令市のなかでトップクラスです。また、適度に都市化が進んでいる一方で、昔ながらの人情というか、人と人とのつながり―良質なコミュニティが今なお息づいています。ちょうど都会と田舎のベストミックスのような都市であることが熊本市の良さであり、強みだと自負しています。

 一方で、市としてまだまだ多くの課題を抱えていることも事実です。先ほどの道路ネットワークについてもそうですし、産業の集積がまだ十分でなく、たとえば仕事を求めて市外、とくに福岡へと出ていく人が非常に多いなど、雇用の場の確保も課題の1つです。こうした課題を1つひとつ解消していきながら、先ほどお話しした強みをうまく伸ばしていくまちづくりを進めていかねばなりません。

熊本市長 大西 一史 氏

    熊本市の場合は、これまでのよくある経済至上主義や過度な人口増を目指していくのとは違う方向性で、たとえば安心・安全であったり、子育て環境や教育の充実など、市民の多様な価値観を満足させて、もっと人々の生活の質─Well-beingの向上に寄与するようなまちづくりを進めていくことこそが、目指すべき姿だと考えています。現在、「上質な生活都市」と掲げていますが、市民に「住み続けたい」と思っていただける一方で、市外からも「住んでみたい」「訪れてみたい」と思っていただけるようなまちを目指して、今後もさまざまな施策に取り組んでいきたいと思います。

【坂田 憲治】


<プロフィール>
大西 一史
(おおにし・かずふみ)
1967年12月、熊本市出身。日本大学文理学部卒業後、日商岩井メカトロニクス(株)での勤務を経て、94年11月に内閣官房副長官秘書となり、97年12月に熊本県議会議員に初当選。県議を5期務めた後、2014年11月に熊本市長に初当選。現在、3期目。

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

法人名

関連記事