2024年05月11日( 土 )

電気自動車の普及で期待される次世代パワー半導体(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

日韓ビジネスコンサルタント
劉 明鎬 氏

 SiC半導体は、再生エネルギー分野でも高圧の需要はかなりある。太陽光発電の場合、直流電流を交流に変換して家庭に電気を供給することになるが、この際に高温と高圧に耐えることが要求されるからだ。テスラ社の場合、SiCパワー半導体に変えた後、インバータの重さが半分になったという。

 テスラの後を継いで、現代自動車、トヨタ、ルノー、BMWなどもこの動きに追従している。市場調査会社トレンドフォースによると、SiCパワー半導体の市場規模は23年が22億7,500万ドルで、前年対比で年間41.4%成長することが予想されている。

化合物半導体の特性

半導体 イメージ   半導体の素材には2種類がある。1つの材料でできている単結晶半導体と、2つ以上が混ざっている化合物半導体である。化合物半導体の場合、単結晶に比べて、バンドギャップが広くなるのが大きな特徴である。バンドギャップが広くなると、電流が移動するのが難しくなる。その結果、バンドギャップが広いほど、電力損失が少なくなって、エネルギー効率が上がるわけだ。

 フランスの市場調査会社Yole Groupによると、SiCおよびGaNデバイスは2027年末までに、パワー半導体市場全体の30%のシェアを獲得し、シリコンMOSFETやIGBTを置き換えていくという。その市場に世界企業が注目している。

 窒化ガリウム(GaN)はガリウムと窒素を結合した化合物である。GaNパワー半導体はスマートフォンの高速充電などに主に使われることが見込まれている。それにデータセンター、通信や家電製品などにも需要があると思われている。

 GaNパワー半導体はワイドバンドギャップがSiの3倍ほどあるため、高熱下での動作が可能なことも大きな特徴である。さらに、スイッチング特性がさらに高く、スイッチの切り替え時に発生する電力損失が小さいため、発熱量が少ないことや部品を小型化できるという特徴がある。

次世代半導体の課題

 SiCはダイヤモンドの次くらいに固くて、ウェーハーにイオンを注入するなどの加工作業がとても難しく、そのため機械的、化学的な加工が難しい材料の1つとされている。その結果、イオン注入により高いエネルギーを必要とするし、500~600℃高温での熱処理が必要なため、既存の設備が使えず、別途の設備を必要とする。

 また、既存の素材に比べて、まだ値段が高いことも大きなハードルの1つになっている。需要が増えたり、技術革新が進むことで、価格が下がる可能性がある。しかし、データセンター、通信、電気自動車、軍事など、高温と高電圧に耐えることが求められる環境が増えつつあるので、半導体市場のなかで有望な市場としてパワー半導体市場に各国政府と企業は開発競争のための投資に尽力している。

 とくに中国は特許出願などにおいても世界をリードしていて、米国、日本がその後を追っている。韓国はこの分野では少し遅れを取っている。やっと政府や企業は世界各国の動向に気が付き、韓国でも化合物半導体の開発や研究に力を入れ始めている。パワー半導体の分野ではドイツのインフィニオンや米国のオン・セミコンダクター、日本のロームなど既存の企業が強みを維持するのか、それとも市場に変化が訪れるのか、その推移が注目されている。

(了)

(前)

関連キーワード

関連記事