2024年05月12日( 日 )

【クローズアップ】物流2024年問題は新たなステージへの契機 トラック運送業が直面する生き残りの2要件

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 物流2024年問題は、トラック運送業界にとって重大な挑戦だ。しかし、この難局は業界が持続可能な発展を遂げ、生産性を高める絶好の機会でもある。(株)データ・マックスは昨年12月に福岡県下の一般貨物輸送事業者449社を対象に経営動向調査を行った。本稿では2024年問題に直面する事業者の経営実態を踏まえ、運送会社が遭遇する諸問題とそれらを克服するための戦略に焦点を充てる。

業績の前期実績と今期見通し

トラック イメージ    (株)データ・マックスは2023年12月に福岡県に本店がある一般貨物自動車運送事業者449社に対して経営動向のアンケート調査を実施し、「景況感(前期実績および今期見通し)」「設備投資動向」「経営上の問題点について」の3分野について、29社から回答を得た。

 前期実績に関しては、1=増加(好転)、0=不変、▲1=減少(悪化)と数値化して分析した結果、売上高、受注単価、外部人材、長期資金借入難易度、短期資金借入難易度、借入金利はいずれもプラスの値を示し、一定程度の業績向上や資金調達の容易さを示唆する。

 一方、資金繰り、採算(経常利益)、業況はマイナス値を記録し、資金繰りの悪化、利益率の低下、全体的な業況の悪化を示す。これらは、燃料コストの上昇が利益圧迫の一因となっている可能性がある。今期見通しは、受注単価が0.4と引き続き増加する見通しであるものの、仕入単価(燃料等)は0.6と依然として高い増加が見込まれ、価格転嫁は限定的となり、コスト圧迫要因が続くと予想される。

 売上高、採算(経常利益)、業況などは前期実績から改善または不変の見通しを示すが、資金繰りは引き続きマイナス値を維持し、資金繰りの懸念が残る結果となる。

新規設備投資の傾向

 前期実施内容では、車両・運搬具への投資が最も多く、20社が投資を行った。これは、運送業務の根幹を成す車両や運搬具の更新や増強が、業務効率化やサービス品質向上に直結するためである。次いでOA機器への投資が9社に上り、事務作業の効率化やデジタル化の推進が進んでいることが明らかだ。土地と建物への投資はそれぞれ5社と4社で、物流基盤の拡張や改善が行われたが、これらへの投資は比較的少数であった。サービス設備や付帯設備への投資も少なく、直接業務に関わる車両・運搬具やOA機器への投資が優先されている状況が確認できる。

 今期計画は、車両・運搬具への投資がさらに増加し、23社が計画している。これは、運送業務のさらなる効率化やサービス品質の向上への意欲が高まっていることを示している。OA機器への投資は前期と同数の9社で、引き続き事務処理の効率化やデジタル化への注力が見られる。土地、建物、サービス設備、付帯設備、福利厚生施設への投資は前期に比べて減少しており、車両・運搬具とOA機器への投資の重要性がより一層際立っている。

経営上の主な問題点

 原材料値上がり(18社):最多の事業者が直面する問題で、運送業において燃料費が重要な原材料であるため、その値上がりは経営に直接的な影響を与える。結果として、コスト圧迫と利益率の低下が生じている可能性がある。

 人件費上昇(15社):労働市場の変化や運送業界の人手不足により、人件費の上昇が経営上の大きな負担になっている。この人件費の増加は、経営の持続可能性に影響を与える可能性が高い。

 受注単価の値上げ困難(11社):原材料や人件費の上昇にも関わらず、受注単価の適切な値上げが困難であることが明らかになっている。これは、価格競争が激しい市場環境や荷主との交渉力の差に由来する可能性がある。

 従業員対策(10社):従業員の確保、維持、育成は重要な経営課題である。とくに運転手不足は業務の実施能力に直接的な影響を与えるため、対策が急務である。

 その他の問題点として、他企業との競争激化(3社)、売上不振(3社)、資金繰り悪化(4社)などの問題も存在するが、主要な問題に比べてその数は少ない。

 この結果を踏まえ、一般貨物自動車運送事業者が直面している経営上の問題は、原材料の値上がり、人件費の上昇、受注単価の値上げ困難、従業員対策に集中している。これらの問題は、運送業者が経営戦略を立てる際にとくに考慮すべきポイントであり、コスト管理、価格戦略、人材管理の最適化が業界全体の課題となっている。

深刻な労働環境と人手不足

 トラック運送業は日本の物流システムの核心を担っており、その重要性は国内貨物輸送量の91.4%を占めるほどだ。しかし、この業界は法改正と規制緩和の波に乗り、過去数十年間で大きな変化を遂げた。1990年の参入規制緩和以降、とくに2000年代半ばまで事業者数が急増し、現在では約5万8,489件の事業者が存在する。だが、この成長は同時に多くの課題も引き起こしている。多くのトラック運送会社は小規模で、中小企業が業界の大部分を占めており、資本金1億円以下の事業者が95%、従業員20人以下の事業者が70%を超える。このような構造は、多重下請の問題を深刻化させ、競争を激化させる一因となっている。

 また、労働環境の厳しさも業界の大きな問題だ。長時間労働が常態化し、とくに長距離運送では運転者の負担が大きい。国勢調査によると、運送業の従事者数は1995年の98万人から2015年には76万人に減少し、若年層の不足が顕著だ。この人手不足は求人倍率が全業種平均を上回り続けるなか、業界全体の課題となっている。厳しい労働環境と低賃金が原因で、運転手の採用と定着が難しくなっているのだ。運送業界では運転者の高齢化が問題となっており、大型運転者の平均年齢は50歳を超えている。

 これらの課題に直面するなかで、トラック運送業は持続可能な発展のために新たな戦略を模索する必要がある。事業規模の小さな会社が多い業界構造、厳しい労働環境、そして人手不足という深刻な問題を克服するため、業界全体での協力と革新的な解決策が求められている。これらの問題への対処は、日本の物流業界全体の効率性と競争力を高めることにもつながるだろう。

トラック運送業の挑戦

表1

 トラック運送業界は、厳しい市場環境下で収益性とコスト管理のバランスを求めている。過去10年間の分析によると【表1】、100台以上の車両をもつ大規模事業者は営業収益を伸ばしているが、100台未満の中小規模事業者は収益のわずかな増加にとどまっている。20年以降、大規模事業者の収益拡大の背景には、物流総合効率化法の改正を活用し大規模物流施設を稼働させたことがある。この動きは、物流業界の将来における重要なポイントである。

 営業利益率に関しては【表2】、小規模事業者の利益確保が困難な状況が浮き彫りになっている。一部の事業者は営業外収益によって経常利益を確保しているものの、全体的に低水準の利益率で推移しており、厳密な費用管理が必要である。トラック運送業の費用構造は、主に人件費、燃料費、車両維持費によって構成され、これらの管理が業務の安定性に直接影響を与える。とくに燃料費の高騰や人件費の上昇は利益率に大きく影響している。

表2

 業界が直面する「物流の2024年問題」は、労働時間規制の強化により、トラック運転手の労働時間が制限され、人手不足がさらに深刻化すると予測される。24年には輸送能力の14.2%が不足し、30年には34.1%が不足すると試算されているため、配送スケジュールの見直しや効率化が急務である。

 政府や業界団体は物流適正化や生産性向上に向けたガイドラインを策定し、物流革新緊急パッケージを通じて業界の健全な発展を促進している。23年7月からは「トラックGメン」による監視体制が強化され、不当な低運賃契約や長時間労働を抑制する施策が講じられている。国土交通省は、運送業者の収益性向上と運転手の労働条件改善を目指して「標準的な運賃」を提示し、荷役作業に関しても別の料金水準を設けている。これらの取り組みは、物流の2024年問題に対処し、業界の持続可能な成長を目指すために不可欠である。

生き残りの2要件

 24年1月26日、国土交通省はヤマト運輸(株)と王子ホールディングス(株)の子会社である王子マテリア(株)に対し、法令違反につながる不当な要求をしていた疑いで是正勧告を行った。これは、トラックドライバーの時間外労働規制強化に先立ち、「トラックGメン」による監視活動の結果に基づく初めての措置であり、業界を震撼させた。これまでの商習慣に強く関与を始めた政府の取り組みを考慮すれば、物流業界の革新は国家プロジェクトであるといえる。トラック運送会社が直面する物流2024年問題への対応は、次世代への生き残り戦略でもあり、運送会社は少なくとも以下の2点での経営革新が不可欠である。

 1.受注単価の値上げ。運送会社は、荷主企業との関係強化に努め、物流プロセスの最適化を共同で追求する必要がある。配送スケジュールの柔軟性向上、積載効率の改善、納期調整による運行効率化など、荷主の協力を得るための折衝が重要である。そのための前提として、運送会社は業務プロセスとコスト構造の透明性を確保する必要がある。ITツールを活用した運行管理システムの導入、燃料消費量のモニタリング、労働時間の正確な記録などにより、コスト削減の機会を特定し、意思決定の精度を高めるための人的および設備への投資が絶対条件である。

 2.トラック運転者の確保、定着対策。運転者不足は運送業界全体の課題であり、とくに2024年問題においては人材の確保と定着がより一層重要になる。運転者向けの研修制度の充実、キャリアパスの明確化、適正な報酬体系の確立、労働環境の改善など、運転者が長期的に働ける環境を整える必要がある。また、女性や高齢者、外国人労働者の積極的な採用も視野に入れるべきである。2024年度税制を背景に、大企業はこれまで以上の賃金上昇を実施する可能性が高く、労働力の確保は生死を分ける分水嶺となる。

 物流2024年問題への対応は、コスト管理、価格戦略、人材管理の最適化が業界全体の課題となっている。これらの施策は、運送業界を担ってきた事業者にとって容易ではないかもしれないが、政府の物流適正化・生産性向上に向けたガイドラインや商慣習の見直しにより、長期的には達成されるべき取り組みだ。現状維持は許されない環境であり、適応できなければ、事業譲渡や廃業も選択肢となる。しかし、これらの挑戦を乗り越えれば、運送業界は新たな成長を遂げることができる。政府の強い意志と業界の協力により、物流2024年問題は運送業界にとって新たなステージへの進化の契機となるだろう。

【児玉 崇】

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