2024年04月19日( 金 )

不動産に新たなマーケット6月、ついに民泊新法が施行(前)

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社会問題化した「ヤミ民泊」に対応

 6月15日、「住宅宿泊事業法」――いわゆる“民泊新法”が施行される。増加の一途を続ける外国人観光客の影響で、ホテル不足が顕著となったことに対応したかたちだ。これまで日本で宿泊業を営むには「旅館業法」が定める許可を取得しなければならなかったが、許可を受けるためには立地や設備面でのハードルが高く、容易ではなかった。Airbnbなどの台頭により、「民泊」が市民権を得て普及。不動産運用の手段として、アパートオーナーやマンション区分オーナー、賃借人など個人投資家の間で民泊は拡大していった。これにより、許可のない「ヤミ民泊」が事実上普及していった。

 ヤミ民泊は、主に住宅地のアパートやマンションの1室で行われ、宿泊客による騒音やゴミ、オートロックの開閉などのセキュリティに関する近隣トラブルに発展するケースが相次いだ。しかし、運営業者を補足するのは難しく、「民泊=怪しい」というレッテルを貼られる事態となっていった。

 旅館業法の改正や民泊新法の制定は、これらのトラブルを根本的に解決するものではないが、「事業者」の届け出が義務化されることで、苦情の窓口を整備した格好だ。新法では不動産オーナー(家主)=住宅宿泊事業者、オーナーから委託を受けて民泊事業を行う運営者=住宅宿泊管理業者、Airbnbなどの民泊仲介サイト=住宅宿泊仲介業者と位置づけている。

メリットは立地、デメリットは営業日数

参考:国土交通省資料

 それでは、民泊新法の特徴はどこにあるのか。旅館業法との比較で、メリットとデメリットを示してみよう。

 まずメリットとしては、住居専用地域での営業が可能な点だ。住居専用地域とは、用途地域として都市計画法に定められた地域地区の1つで、建築基準法令に用途の制限が規制されている。旅館業法で宿泊業を行う場合、商業地域や近隣商業地域などに限られており、一般的に閑静な住宅地といわれる高級住宅街などでは事業を行うことはできない。民泊新法では一部都道府県などの条例による制限を除けば、これが可能となる。これが最大のメリットだ。

 一方、デメリットとして挙げられるのが、営業日数の制限だ。法律で180日以下と定められており、条例でさらに制限することができる。京都市の住居専用地域では観光閑散期の1月15日から3月15日までに制限されるほか、東京都新宿区の住居専用地域では月曜日正午から金曜日正午までは営業できないことが条例で定められた。事実上、民泊を宿泊マーケットから追い出した格好だ。

 このように、それぞれメリットとデメリットがあるが、大きく分けると、マンションの1室から始めたい場合は民泊新法、そうでない場合は旅館業法(簡宿)といってよいだろう。消防庁は3月、民泊にマンションを使う場合は、一定の条件を満たせばスプリンクラーの設置義務を免除する案を公表。新たな設備投資が少なくて済むことは、大きなメリットといえる。

福岡は昨年末に大きな規制緩和

 福岡市は半径2.5km以内に福岡空港、博多港、博多駅など陸海空の玄関口が集中。国内はもちろん、韓国や台湾などを中心にアジア圏からの観光客も多い都市だ。また、国際コンベンション開催件数も2016年度は前年比20件増の383件となり、過去最高を更新。国内では東京23区に次ぐ8年連続2位を記録している。

 訪日外国人の増加を背景に宿泊需要は高まり、民泊は不動産投資の選択肢の1つとして注目を集め、Airbnbにも福岡市内の物件が数多く登録されている。しかし、「ヤミ民泊」では「民泊運営者、宿泊者がわからない」といった匿名性が問題となっているほか、近隣住民への挨拶やマンション管理組合、オーナー、管理会社の許可を得ずに民泊を始め、騒音などで近隣トラブルに発展するケースも聞かれている。この問題はメディアにも大きく取り上げられ、社会問題化。法整備を後押しした。Airbnbも新法施行日に無許可の物件の掲載を取りやめることを表明。マンション管理組合の多くは管理規約で民泊禁止を盛り込み、規模拡大を狙う民泊代行会社では、ヤミ民泊から撤退するケースも増えてきた。

 一方で、福岡市は最も規制が緩和された都市ともいわれ、博多駅周辺ではホテルを始めとした宿泊施設の開発ラッシュが続いている。福岡市は新法施行に先立って16年12月に旅館業法に関わる条例改正を行った。大きなポイントは、「直接鍵を受け渡すこと」「緊急時に管理者が10分以内に駆けつけること」「部屋ごとにビデオカメラなどを設置すること」などを条件に、フロント設置義務が緩和されたことだ。さらに、宿泊と住居の混在が認められる、つまりマンションの一室でも宿泊させることが可能になることの2点だ。

(つづく)
【永上 隼人】

 
(後)

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