2024年04月19日( 金 )

不動産に新たなマーケット6月、ついに民泊新法が施行(後)

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TATERUが運営するTRIP POD FUKUOKA

TRIP PHONE

 この規制緩和を追い風に、福岡市内では多くの簡宿が開業している。17年10月に天神エリアにオープンして注目を集めたのが、(株)TATERU(旧・インベスターズクラウド)が運営するTRIP POD FUKUOKA –snack&bed(以下、TRIP POD)。施設の担当者は、オープンから半年を振り返って次のように話す。

 「安全のため、1階を男女共用、2階を女性専用と分けています。2階から順に埋まっていくことが多く、とくに女性にご支持いただけているのではないかと考えています。また、仕事帰りのビジネスマンや外国人観光客の利用者数も堅調に推移しています。利用される外国人観光客の割合は、中国や韓国を始めアジアからの旅行者が多いのですが、弊社が福岡で運営を手がけているほかの民泊施設に比べ、欧米からの旅行者が目立つのもTRIPの特徴です」。

 TRIP PODでは、TATERU子会社が開発を手がけるスマートチェックイン機の導入により、チェックイン時に必要な支払い・身分証明など、ほとんどの受付作業を自動化。利便性の向上とコスト削減の両立を実現した。チェックイン後、利用者には同社開発の旅行者向けIoTデバイス「TRIP PHONE」が貸し出される。テザリング機能や24時間5言語(日・英・中(繁・簡)・韓)対応のコンシェルジュ機能が搭載されており、旅行者を観光面でもサポートする。言葉が通じず、Wi–Fi環境も充実していない――TRIP PHONEはそうしたインバウンド需要にも対応する。

 今後については、「日本の伝統や文化を大切にしながら、今後も増加する外国人の個人旅行客需要に対応していきます。国内外の旅行者に、お菓子を通じて“泊まる目的のあるホステル”として広く知っていただき、1人でも多くの方に『旅の思い出の場所』として楽しんでもらえればと考えています」(担当者)と話した。

地場企業が運営する博多エリアの民泊

 福岡で先駆けて民泊事業に算入したエアベスト(株)が運営するのは、博多駅から徒歩圏内にある「リアリティ博多Ⅱ」だ。全部屋アパートメントタイプ20室で、すべて約35m2と広めの間取りが特徴。また、ホテル並みの大きなベッドが用意され、キッチンにはコンロや冷蔵庫、レンジなどが並び、家電の使用マニュアルは多国語で表記されている。コンセプトは、宿泊客が家に泊まるような生活感を演出すること。トラブルがあればすぐに駆け付けられるサービスも用意している。

 エアベストの担当者は、「清潔さや快適さがリピーターに評価されています。利用者の8割が外国人観光客です。そのうち多くが韓国人観光客で、中国や台湾、香港の方も多いですね。最近では、タイなどの東南アジア系も増えています」と話す。

リアリティ博多Ⅱ

リアリティ博多Ⅱの客室

マンションの焦点は容積率に余りがあるか

 簡宿の場合、当然ながら営業日数の制限はないが、旅館業のため用途地域の制限を受ける。また、建物に関しては旅館業法に則ったものとなるため、スプリンクラーの設置義務などの消防法規制を受けるほか、マンションなどの住居からコンバージョンする場合、容積率が課題となるケースが多くなる。マンションなどの共同住宅ではベランダや階段、エントランスなどの共用部分については容積不算入の緩和措置があり、宿泊施設にコンバージョンした場合、容積率がオーバーする可能性が高い。

 「民泊」へ新規参入する場合、最もハードルが低いのはマンション1室を民泊として運用するケースだが、この場合はこれらの点が「簡宿」「新法」の分かれ道となるだろう。福岡市中心部であれば用途地域の制限は受けないケースが多いため、容積率の問題がなければ年間通じて運用できる簡宿が適しているといえる。福岡市郊外(住専地域)のマンションや容積率に余裕のないマンションであれば、新法を選ぶしかない(一部除外されるケースもあり)。

 運用の観点では、リネン代などの費用を差し引いた宿泊料(180日以内)が賃料を上回る見込みがあれば、新法を利用するメリットは大きい。また、事業として「文化交流を目的とした」民泊を行うのであれば、新法でも十分目的を果たせるだろう。

 最後に、収益面で見ると180日を新法、残りをマンスリーといった運用にも可能性がある。ただし、札幌や沖縄など観光シーズン(宿泊ニーズ)がはっきりしている地域を除けば、オペレーションの点で課題も多く、「現実的ではない」とみる業者も少なくない。要するに、収益を最大化させるために新法で運用する日とマンスリーで運用する日の設定などの業務に、手間がかかりすぎるといったことだ。また、通常の賃貸借と異なり、運用が収益性を大きく左右する。

 福岡で民泊オペレーションを行う会社の担当者は、「弊社が管理している施設ではリネン交換代を含み、平日と祝前日のツープライスだけだが、宿泊料の設定はオペレーション会社によって異なる。稼働率やシーズンによって大きく変動させているところも少なくない。行楽シーズンや学会が重なる時期などの繁忙期、平日などの閑散期によって値付けを変える、空き部屋が当日あれば大きく価格を下げて提供するなど、宿泊料の設定はさまざま」と、宿泊料金の設定について話す。

 このように、宿泊料金も運営会社によって変化するため、運営を委託する場合は宿泊料金に対する運営会社の考えに気をつけたい。前述のようにツープライスでの運用の場合は、宿泊客からみればわかりやすいだろう。大きく価格を変動させる場合は、稼働率を向上させ、収益を最大化する狙いがあるが、宿泊客からみればわかりにくいだろう。それぞれ価格設定に関して異なるブランドイメージを持たれるため、運営会社の選定は大きなポイントだ。

 「民泊運用」という選択肢ができたことで、これまでの伝統的な不動産運用とは異なった収益の確保が可能になった。前述したように、福岡市内で最も宿泊需要が高い博多駅周辺から天神にかけてのエリアでは、簡宿向けの開発が相次いでおり、地価や建築コストの高騰をモノともしない勢いがある。
 民泊の運用には宿泊料の値付けなどのオペレーション業務において、通常の賃貸やマンスリーとは大きく異なった知見が必要になるため、M&Aを除き不動産会社が参入するケースはまだ少ないが、不動産業界で「民泊」の影響力は大きく、今後も注目を集めそうだ。

(了)
【永上 隼人】

 
(前)

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