NET-IB NEWSネットアイ

ビーニュース

脱原発・新エネルギーの関連記事はこちら
純広告用VT
カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ
会社情報

経済小説

天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (106)
経済小説
2011年4月 4日 15:22

 二次入札前のデューデリジェンスを前にした頃だったが、牧田取締役が私の席にきて少し立ち話をした。他の社員は皆帰宅した後の夜中のことだったと思う。

「やはり入札は大手が強いのでしょうか」
 と牧田取締役。
「強いだろうね。彼らは、デューデリに弁護士も会計士も連れてくる。買う姿勢だよ」
 と私。
「大手になったら、どうなりますかね」
「年輩の管理職を別にすれば、担当者レベルの社員には案外、幸せなのではないかと思う。大手は、たぶんすべてを自分のシステムに組み込んでしまい、社員を継続雇用してもDKホールディングスのチームで仕事をさせるのではなく、自社の現業で不足するところにはめ込むことを考えているだろう。そういうことがいやな人はともかく、担当者レベルの人は、もともと与えられた作業をしているわけだから、それが、より優れた制度やシステムを持っているところでの勤務になるのは不幸せではないと思う。ただ、年輩の管理系の人は、現業に配置転換されたりしてつらいと思う」

「黒田会長は、是非、ナンバショット支援の新会社で、とお考えのようですが」
「ぼくも心情的にはそのほうがいいと思う。何といっても、これまでと同じお客さんと同じ環境で、というのは幸せだ。ただ、今のDKホールディングスの不動産管理は、改善するべきところが山ほどあるから、現場を引っ張る牧田部長は大変だよ。ただ、結果は入札でしか決まらないし、歴史にイフはないから、後から、そうでないほうがよかったといっても始まらない。だから、今するべきは、各入札者に対して、今回のデューデリで、当社のいいところも悪いところも、必要な情報をきちんと見せておくことだと思う。とくに、牧田部長は、どちらになっても現場の長として必ず残って相手方といっしょに仕事をするわけだから、忌憚のない話をしておいたほうがいいと思うよ」

牧田取締役が私の席にきて少し立ち話をした...「社員は、皆どうなるか、固唾を飲んで見守ってますよ」
「担当者レベルの人たちは、相手先が雇用の保証さえしてくれたら、そんなに不安を感じる必要はないよ。退職給付債務も継承をお願いしているし。あとは、リーダーの牧田部長がどうなっても逃げないことだよ」
「今、自分が逃げたら、本当に事業が崩壊する、と実感しています。社員はX取締役の事件も見ていますし、自分としては逃げるわけにはいけません」
「そうであれば、ぼくは安心だ。困難なときの指揮官には、逃げない姿勢が何より必要だ」

「石川さんは、今後どうするんですか」
「まずは、事業譲渡をきちんとクロージングすることがぼくの責任と思っている。転職先などはその後考えるつもりだけれど、個人的には地元の中堅企業か上場準備企業で経営企画の仕事をして、是非もう一旗あげたいと思っている」
「新会社に残るつもりはないんですか?」
「新会社のスポンサーに頼まれたら考えないでもないけど、ぼくは来期の収益計画も作ったからわかるけれども、新管理会社は、かなり引き締めて運営しないと安定しない。ただでさえ年輩の経理部長もいるし、そのうえにぼくのような人材を置くことは重すぎるように思う」

 実際のところ私は、入札のため事業のPLを作成したところ年収1,000万円程度をいただき私自身が残ることは負担が重過ぎると考えていた。それに、経営責任の観点から、いかに管理担当とはいえ倒産会社の常務が新会社に残ることは受け入れられないと思われた。そこで、入札要綱では、黒田会長を顧問などとしてしばらく置いていただいてオーナー様をつなぎとめるほかは、現役員から2名程度を幹部として継承していただくよう要請していた。その2名としては、私は当初より、昨年6月の総会で取締役に選任された牧田、稲庭両取締役を想定していた。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

≪ (105) | (107) ≫

※記事へのご意見はこちら

関連記事

powered by weblio


経済小説一覧
純広告VT
純広告VT

純広告用レクタングル


IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル