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トリアス久山物語『夢の始終』(4)~全員解剖の町
経済小説
2011年8月10日 07:00

<全員解剖の町>

久山町 健康にまつわる逸話はそれだけではない。
 九州大学医学部と久山町で取り組んだ脳卒中の疫学調査は世界的に有名である。それは原則として40歳以上の町民は全員参加し、亡くなったら必ず解剖する、というすさまじいものである。

 小早川の前の江口町長は、陸軍大学校出の元参謀で、統計数値を分析するのが好きな人だった。そして、当時の久山町民の死因には、脳卒中が異常に多いことに気がついた。
 一方で、九州大学医学部の勝木助教授は、日本人の死因は、諸外国と比較して脳卒中が多いことに気がついており、これを何とか疫学的に調査し、その原因を究明できないかと考えていた。
 そこで、九州大学のある福岡市から比較的近く、人口構成が日本全体とほぼ同一で、人口の外部との異動が少なかった久山町に目をつけてきた。当時、町議会の副議長だった小早川も賛成し、自らが町長に就任してからは、さらに積極的に推進した。
 「費用を大学が持ってくれてタダなのがよい。悪いこっちゃないのだから、やりなさい、やりなさい」
 久山町と九州大学が連携して、町民が亡くなったら全員を解剖検査に付しながら、食生活と脳卒中の関連性を検証していった。

 保守的な土地柄ゆえ当初、町民は亡くなった親御さんを解剖に付することに抵抗した。町民が亡くなると、通夜の席に九大の医師がやってきて、親御さんを解剖させてください、と来るが、親を亡くした家族は、そんなことではおじいちゃんが成仏できない、と反対する有様だった。まあ、当然だろう。

 ところが、翌年になり、町は九大とともに住民に呼びかけた。
 「解剖をすることがこの研究の目的なのです。解剖をしないのなら、検診も意味がありません」

 小早川がそうはっきり説明することで1年くらいすると、町民の態度に変化が現れた。
 「死んだら解剖してもらっても結構だ。先生があれだけ熱心にやってくれとる。その先生が頭を下げて頼んでいるのなら、それに応えようじゃないの。自分が死んだら解剖されてもなんともない。家族がガタガタいうことはないんじゃないの」と、お年寄りが言ってきたのだ。
 その背景には、町内のお寺の住職の説得もあった。
 「親鸞聖人は、『自分が死んだら賀茂川に入れて魚に与うべし』といっておられる。死んでもエサになって世のなかの役に立つ。だから死んで解剖されて、それが人のためになるなら極楽往生は間違いなしじゃ」と太鼓判を押してくれたのである。

 こうして前代未聞の、住民全員解剖制が定着した。
 この研究は、高血圧・脳卒中の研究者の間では、「久山町研究」と呼ばれて有名である。40年以上にわたり40歳以上の全員参加での実証研究が続けられ、解剖実施率80%、追跡率99%という驚異的な成果を挙げた。町民の健康という観点から見ても、40年で脳卒中による突然死は、七分の一に減少したのである。
 研究はまもなく50周年を迎え、盛大な記念行事を予定しているとのことである。

(つづく)
【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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