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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (153)
経済小説
2011年5月21日 07:00

 そこでの神経戦は想像に難くないと思う。家内はしきりにプリウスの燃費の良さを口にし、「腰の悪い自分にはミニバンのほうが乗り降りが楽」といい、この話題になると私は黙るよりほかなかった。折からの不況対策で、エコカーは大幅減税、これに対して旧いメルセデスは自動車税が10%アップになって久しい。
一方、VWポロも中古車で購入し... 一方、VWポロも中古車で購入して車齢10年を過ぎいろいろと故障が生じつつあったが、3月の車検終了後の廃車を見据え、追加投資は最小限に抑える戦略をとっていた。たとえばABSのコンピュータが不調となり、ときどき日常のブレーキ時にブブブッと作動していたが、あくまでもフットブレーキが作動するためそのままにしてあった。

 家内は私のメルセデスをエコの対極といって非難した。たしかにメルセデスの燃費は、市内の通勤使用では6キロくらいである。しかしエコを言うなら、クルマを1台潰して1台新たに作ることで発生するCO2は、エコカーへの乗り換えによる燃費向上によって圧縮できるCO2の10年分に相当するのである。それにクルマが好きな私にとって、まるで家電製品のようなミニバンという車種を選択することはあり得なかった。たしかに、最近のミニバンはドアが自動だったりするし、メルセデスまでもがイプサムもどきの新車を出すくらいなので、私の感覚が古いのだろうが。

 ところがある日、家内は、
「私、ベンツの運転を練習する。しょうがないやろもん」
 と言ってくれた。
 それからというもの、最初は自宅周辺の住宅街から始め、やがて保育園への娘の送迎や勤務先の病院までの通勤経路のトレーニングに、私が最大限親身に対応したことはいうまでもない。

 7月に入り、家内は通勤途上、清涼飲料水の会社のトラックとの接触事故を起こした。前方を進行していたトラックが右折しようとして停止したところを、左側をすり抜けようとし車体の右側を接触、かすり傷を作ったのである。被害は大したことなく、私が手作業で修理できる程度だった。相手の損害も荷台の塗装の剥げ程度であった。しかし、まさに、左ハンドルの大柄なクルマに不慣れゆえの事故だったので、家内のことを思うと私はいてもたってもいられなくなった。
 ところが、この事故に関しても家内は
「少し慣れてきたのが危なかったね」
 と冷静に受け止めてくれた。その後、家内はさらにメルセデスの運転に慣れてきたようである。

 実は、家内は、親友である高校時代の部活の後輩にメルセデスの話をしたらしい。すると、親友は同情してくれることしきりだったという。そして私がメルセデスを趣味として、週末には部品を取り外して磨いたりしている、という話をすると
「それは、ご主人にとってプラモデルみたいなものなんですね。男の人からプラモデルを取り上げることはできないですもんね」
 といわれたそうである。そのようなこともメルセデス問題にはプラスに作用したのではないかと思う。

 家内は職場に旧いメルセデスで通勤することとなり、いろいろな人から「どうしたんですか?」と聞かれたそうだ。まあCクラスとなって以降のそこそこ新しいメルセデスなら、それなりに普通に受け止められ雰囲気に違和感はないだろうが、何しろ我が家のメルセデスは30年前の設計の、クロームメッキもいかめしいモデルである。普通の人ならぎょっとするだろう。国産車で考えても、24年が経過したクルマを毎日の足に使うというのはかなり大胆なことだろう。それだけ予防整備が大切になる。

 私はいずれ再就職して生活を再建し、家内のために軽自動車でも買えたらと思っている。しかし、そうなる前に家内がメルセデスの味わい深さを分かってくれたらなお嬉しい。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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