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経済小説

トリアス久山物語『夢の始終』(3)~真のマキャベリスト
経済小説
2011年8月 9日 07:00

<真のマキャベリスト>

 民主主義国において一国のリーダーが、強烈なカラーを出してことを進めていくのはなかなか難しい。

 それは、大衆向けマスコミの表面的な報道に付和雷同する有権者から支持を得られなければ何もできないからである。
 語弊を恐れずにいえば、無党派層の有権者には正論が通じない。それは、有権者の大半が、個々のプライドを持たない烏合の衆だからである。その証拠に、約半数の有権者は、選挙権を行使することもしない。

民主主義国 このため、最大の民主主義国であり、力が何よりも信奉されるアメリカ社会では、大統領は、タフで頼りがいのある人物でなければならず、大衆をひきつける弁舌が、独裁者以上に必要である。独裁者は暴力装置を活用することができるが、民主主義政体下の政治家にはそれができないからだ。
 そこで、あらゆる方法で世論を誘導し、有権者の注目を得る努力をする。
 アメリカでは大統領を決めるのに党内での候補者決定から予備選、本選と3年間をかけてトーナメント戦を行なう。この結果、アメリカ大統領に選出される人は、タフで頼りがいがあるだけでなく、世論を誘導し有権者を説得する技術を身につけている。(これらを支えるため、ホワイトハウスにはスピーチライターという役職もある。)
 民主主義国家のリーダーはマキャベリストでなければならない、ということだろう。

 我が国の最近の首相で、マキャベリスト度が高かったのは、やはり小泉さんだろう。

 「自民党をぶっ壊す」などと大衆を引き付ける言葉を上手に使ったし、世論の散漫化を防ぎ、マスコミを味方につけるために「郵政」「道路公団」「抵抗勢力」などと常にわかりやすく、大衆マスコミが書きやすいスケープゴートをつくった。そして、やはり優等生の官僚が下書きするような総花的な改革論では反対論が百出してしまうため、インテリ層から「優先順位が違う」という批判があっても、大衆が関心を持ちやすい案件をターゲットとし、徹底した各個撃破の戦略をとった。郵政民営化という戦果を得るために、解散総選挙まで打ったのだ。

 このような民主主義マキャベリズムを、「郵政民営化よりももっと重要な課題もあるのに、優先順位が違う」などと批判するのはたやすい。しかし、そのような理屈より何よりも、政治のリーダーは国民の支持を受け続けなければならないのだ。それが満たされてこそ、初めて各種の課題に取り組むことが許されるのである。

<7期28年の首長>

 この点、久山町長をなんと7期28年を務めた小早川は、真のマキャベリストであったといってよい。
 そのほとんどは無投票での選出であり、地元に盤石な基盤が築かれていたことがわかる。その理念は、今風にいえば自主、自立、自己責任とでもいおうか。

 子供は家で育てるべき、という持論のもと、町内に保育園は作らなかった。しかし、3歳からは全員を幼稚園に収容した。中学校にはかたくなにプールを作らず、そのかわり町内を流れる蛍の出る清流の河川敷にプールを設け、そこで水泳の授業を行なった。それは県営の河川だったので県の役人から「勝手なことをするな」と文句をいわれるが、「あれはあひるの遊び場ですたい」といって取りつく島もなかった。

 町民の健康づくりにも信念があった。

 1976年、福岡県市町村職員共済組合の理事長に就任した小早川は、職員組合の反対を押し切って保険料率を上げることで、ひとまず組合の赤字財政を立て直した。
 料率のアップに言及すると、当時は国鉄の労働組合が、最後の抵抗をしていた時期で、自治体の組合も激しく突き上げてきたが、それを一人で受け止め、妥結に至る胆力があった。それだけではない、風邪や目や鼻の簡単な病気では病院に行くな、と職員や組合に激を飛ばすことで、医療費の増加を抑えこんだ。

 小早川はこういう。
 「福岡県の市町村職員の症例を分析してみたら、風引きと腹痛と、かいかい病というか皮膚病、これはたいしたことやない。なかにはニキビが出たというようなのと、目にゴミが入った、耳が詰まって聞こえが悪いとか、そんなくらいの症例のもので医療費全体の30%を占めているんです。こんな病気は、目にちょっとゴミが入ったくらいなら目薬をさせばいいじゃないか、洗眼くらいは自分でできるじゃないか、耳の掃除は自分でしたらどうですかね、風邪引きにいたっては、風邪なぞ引くな」
少し乱暴なようだが、小早川はそう職員に徹底することで、医療費を下げ、やがて保険料率も9.6%から0.2%引き下げたのである。健康保険の問題では組合と徹底的に対峙したが、その後こうして結果を示したことで堅い信頼関係を築いた。

(つづく)
【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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