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私だったら、アメリカの憲法をモデルにしない!~「アメリカが劣化した本当の理由」コリンP.Aジョーンズ著(新潮新書)
書評・レビュー
2013年1月10日 12:58

 最近、アメリカはどうかしている。読者のなかには、昔からどうかしていると思っている人も多いとは思うが・・・。著者は9.11同時多発テロ事件以来、アメリカはおかしくなっていると思う人がアメリカ国内でも特に増えたと言う。昨年11月のオバマ大統領再選を理由に、アメリカ全州から、数十万を超える「合衆国脱退請願書」がホワイトハウスに殺到している。

 著者はニューヨーク州弁護士、同志社大学法科大学院教授である。カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、東北大学大学院法学研究科博士前期課程、デューク大学ロースクールを修了した。本著では、法律の専門家らしく、アメリカの憲法と法制度を中心に、アメリカの民主主義の問題点を検証している。その結果、世界に向かって「民主主義」の徹底、差別の撤廃を呼びかけ、イラク、アフガニスタン、イエメン、リビア、パキスタンなど他国に、勝手に不明瞭な根拠で侵略や武力行使をためらいもなく仕掛けるアメリカの「民主主義」は虚像であるというのだ。

 合衆国憲法は民主主義国家を作るためにではなく、一種の条約機構を再構築するために制定されたものである。しかも失敗作だ。"United States"は日本語では「合衆国」(君主のない共和制を指した表現)と訳すが実体は「合州国」である。
 アメリカ合衆国の成立後も連邦規約によって合衆国政府に委託された権能以外の主権は依然として各州(国家)が保有している。州単位に憲法、刑法、家族法、会社法が存在し、その頂点は各州のSupreme Court(最高裁判所)である。訴訟大国アメリカの弁護士の数は百万人(日本は数万人)を超える。50の州のすべてに、独自の州法、連邦法があるので、弁護士がいくらいても足りないのである。

 本書は、合衆国憲法は失敗した条約であるという第1章に始まり、参政権は穴だらけ、巨大権力が集中する米大統領、参政権のないアメリカ人・特権を持つアメリカ人、奴隷制の長い影、アメリカの司法の功罪という全6章で構成され、これでもか、これでもかと「アメリカ=民主主義」の虚像を暴いている。

 アメリカ人も信じている「民主主義を愛するアメリカ人が、一団となってイギリスに立ち向かい、自由をつかみとった」というのはすべて神話である。独立に積極的だったアメリカ人は全体の3分の1で、残りの3分の1は無関心、3分の1は反対で、反対派の一部は追い出されカナダに流れている。
 合衆国憲法には民主主義という言葉も出てこなければ、国民の投票権も幸福追求権も謳われていない。奴隷制度と人種差別を正当化してきた法律は今なお暗い影を落とし、一票の格差など問題にならない。銃社会は一向に改善されず、大統領や連邦政府の権力は増す一方で、個人の自由は狭まるばかりである。この制度疲労した大国を誰が「民主国家」と呼び続けているのか。

 憲法や民主主義に関してアメリカから学ぶものがないと思っているのは著者だけではない。
 2012年2月に独裁政権打倒後のエジプトを訪れた米最高裁の現役判事のルース・ベダー・ギンズバーグは、エジプトの新憲法に関連して「私だったら、アメリカの憲法をモデルにしない」と助言したと言う。

<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。


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