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特別取材

大さんのシニア・リポート~第15回 団地が死んでいく?(後)
特別取材
2013年11月22日 07:00

 団地の空き室解消法としてユニークな取り組みを紹介する。板橋区にあるUR高島平団地と近くにある大東文化大学との間で賃貸契約を結んだ。空き室を格安で提供する代わりに、学生が団地自治会の活動に参加して、活性化を図る。高齢化した自治会に、若い人たちの参加は大いに刺激になるだろう。
 公営住宅の入居は、相も変わらず高倍率の抽選を経なくてはならない。わたしは数年前、県の住宅課に提案したことがある。「県がUR賃貸の空き室の賃貸契約をURと結ぶ。これを住宅困窮者に貸し出す。これでURも空き室が埋まり、住宅困窮者解消にもなる。抽選で入居者を決めるのだから苦情も出にくい」というアイディア。ただし、県からの回答は今日までない。

千葉県松戸市常盤平団地にある星型住宅 ここによく登場する千葉県松戸市常盤平団地の取り組みを抜きに「団地問題」を語ることはできない。昭和35年竣工、築53年の超老朽化団地では、「家賃値上げ反対」「建て替え反対」闘争を30年近く続けた結果、適正な賃貸料が維持され、建て替えによる住民の入れ替えも避けることができた。住民同士の結束が強く、自治会運営がスムーズである。
 実は最近になってUR自身がこれに気付いた。まず、建て替えせずメンテナンスだけで維持が可能になると、建て替え費用が不要となる。賃貸料が安く、したがって空き室ができにくい。URにとっても安定的に収入を得ることが可能になり、自治会にとっても居住者の減少がない分、安定した自治会費の確保が可能となる。

 建て替えられたUR団地は賃貸料が上乗せされ高額となる。旧住民は退去し、新住民も増えず空き室が埋まらない。入居可能な住民の大半が高額な年金受給者に限られる。すると住民の平均年齢が跳ね上がり、なかには65歳以上の高齢者が50%を超すUR団地も現れた。住民同士の交流もない。すると、予期せぬ孤独死が顔を見せはじめる。

 前述の常盤平団地自治会には中沢卓実という傑物会長がいる。賃上げ・建て替え反対闘争を指揮し、あってはならない孤独死にあえて正面から対応した人物である。「松戸孤独死予防センター」を開設し、孤独死回避のための見守りをスタートさせ、空き店舗を利用して高齢者のコミュニティセンター「いきいきサロン」を開設して、独居高齢者の居場所を提供した。その結果、悲惨な孤独死が激減したのである。

いきいきサロン

 最近になってUR自身が経営の発想を大きく変えた。「団地マネージャー」という肩書を設けた。団地内の様々な問題に対処する役割である。住民同士のイベントを企画・援助したり、相談ごとに乗ったりの何でも屋である。当然、孤独死にも対処する。このセクションを設けたのには、UR団地入居者の減少という切羽詰まった現状があった。それまではせいぜい賃貸料の引き下げ程度でお茶を濁していた。これでは根本的な解決からは程遠い。

 URは松戸の常盤平に学んだ。「いきいきサロン」を手本に、団地内に「コミュニティスペース」を設けた。使われることの少ない集会所をリフォームして、地域住民なら誰でも利用可能なスペースにした。そこでは「母親教室」「食事会」「子育て教室」「趣味の会」などを企画して住民参加を募った。当然高齢者が参加できる企画もある。老若男女、年齢には関係なく顔見知りができた。子育てのベテランの高齢女性は、若いお母さんにアドバイスし、若者は高齢者をいたわる。こうした絆を団地内に植え付けることで、孤独死や孤立化、虐待や閉じこもりといった閉塞感から住民を解放しようという試みである。問題は山積しているが、画期的な試みとして期待されている。旧公団時代の経営からは想像しがたい大転換である。

 実は、わたしも、12月初旬を目指して「サロン幸福亭」を開店予定である。高齢者の居場所というのは、「365日開いている場所」を指す。来たいときに開いていなければ居場所とは言えない。場所はURの空き店舗。当然、URの援助がなくては開店できない。これについては後日報告したい。
 「日経ビジネス」の取材の中身については、「日経ビジネス12月中旬号」をお読みください。


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<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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