2024年04月23日( 火 )

厳しさを増す調剤薬局業界 1,200億円企業の次の一手は(中)

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総合メディカル(株)

マーケットリーダーは不在 しかし野放図な拡大はNG

 まず押さえておくべき大前提として、国は保健医療にかかわる費用を可能な限り圧縮しようという強い意図を持っている、という事実がある。伸び続ける平均寿命と、戦後日本最大の人口ボリュームを持つ団塊の世代の高齢化により、今後の日本は非常に高額な医療費を負担し続けることになる。国の医療費は年8,000億円のペースで増加を続けている。この伸びを抑制するために、毎回の診療報酬改定では薬価や調剤報酬の引き下げ、ジェネリック医薬品の励行など単価を絞るためのさまざまな施策が打たれている。それだけ、調剤薬局の利益率は下がっていかざるを得ない。個人経営であればより経営は厳しくなり、中・小規模のチェーンでも厳しい状況で経営を続けるか、売却先を探すかという判断を迫られることになる。

 そこで、近年活発なのがスケールメリットを求めた大手調剤薬局チェーンのM&Aである。現在、年間1,000軒ほどの調剤薬局がM&Aによって買収されているという。

 調剤薬局は全国におよそ5万7,000軒で、コンビニエンスストアの約5万4,000軒を超える。門前薬局を中心に家族経営の個人商店が多かった調剤薬局業界は、最大手ですらシェアは2%、上位10社を合計しても14%に過ぎない小規模乱立市場で、マーケットを左右するほどの規模を持つ企業は存在しない。資金力さえあればM&Aによる規模拡大は十分可能に見えるが、診療報酬改定では大手チェーンの不利に働く規定も盛り込まれ、規模拡大が最適解とはいえない。

 また、隣接業界からの参入も相次いでいる。ドラッグストアチェーンは、従来自店舗でスイッチOTC医薬品(ロキソニンなど、元は処方薬だった医薬品。店頭販売には薬剤師が必須)の取り扱いを拡充するために、調剤薬局とは薬剤師の人材を奪い合う競争相手だったが、調剤薬局としても無視できない位置に浮上してきている。大手ドラッグストアチェーンのなかでも業界最大手のウエルシアホールディングス(株)などは、今後をにらんで専門部署を立ち上げ、在宅医療専門薬剤師を集中的に採用しはじめている。また、東邦ホールディングス(株)や(株)スズケンなどの医薬品卸は調剤薬局から見れば仕入れ先であるが、自グループ内に調剤薬局を持つことで、こちらも既存の調剤薬局チェーンからすると強力なライバルの位置にあると見ることができる。

積極的なM&Aで企業規模・売上を拡大

 総合メディカルは、2010年代から積極的に調剤薬局のM&Aを進めてきた。10年から16年まで毎年数社単位で全国の調剤薬局の買収を続け、17年2月にも福岡市内の薬局を買収している。これにより、02年に100店舗を超えた同社直営調剤薬局は拡大を続け、10年に300店舗、12年に400店舗、14年に500店舗と順調に増加。17年2月現在で672店舗と、飛躍的な増加を見せた。同社が前期末に想定していた17年3月期末の薬局店舗数目標606店舗を、すでに上回っている。また、調剤売上ランキングで1位に位置するアインホールディングスが881店舗(16年4月期)、2位の日本調剤が500店舗以上(16年3月期)であるのと比較しても、拡大路線に舵を切っているのは明確である。

 近年のM&Aのなかでも、注目を集めているのが16年12月に成立したみよの台薬局グループの買収だ。中核企業である(株)御代の台薬局と、その子会社・孫会社合計10社、調剤薬局数は91軒。買収価格は約83億円とされている。規模としても買収金額としても大きいが、この買収で同社が求めたものは、在宅医療分野でのみよの台薬局グループの経験値と実績だった。

 みよの台薬局グループは、首都圏を中心に展開する中堅調剤薬局チェーン。1951年に創業、87年に法人化を果たした。グループの売上高は2016年3月期で約128億円である。同グループの最大の強みは在宅医療への取り組み。在宅医療・訪問服薬指導への取り組みは首都圏でもかなり早い時期から行われ、この分野ではオーソリティといわれるほど。在宅医療に携わる薬剤師は、一般の調剤薬局所属の薬剤師とは違い、患者個人の病歴や治療の段階、体調などとより深く向き合い、臨機応変な対応が求められる。患者との一対一の関係をより深める必要があり、国が「かかりつけ薬局・薬剤師」制度で描くこれからの薬剤師の姿そのものだといえるだろう。

 同社としても、中期経営計画(17年3月まで)のなかで在宅医療の推進と地域包括ケア支援を謳っている。在宅医療に要求されるさまざまな分野の知識を豊富に持ち、医師をはじめとした他職種と連携したケアを行える在宅専門薬剤師を養成し、また各地に医療モール(複数の専門クリニックを併設し、患者が1回の通院で複数科の診療を受けることができる集合医療施設)を設立し、地域医療の拠点としてきた(17年3月期中間までで70軒)。福岡市月隈の「つきぐまメディカルモール」は、以前地域に点在していたクリニックを集中させ、スーパーや金融機関、カフェなども備え医療だけではなく、地域住民が集まる場所として整備した。医療モールは患者ばかりではなく医師にとっても、開業時の準備資金や経営に投じる人的・時間的コストが節約できる、診療科同士の横の連携でより効果的な医療が提供できるなど、メリットは多い。また、先に触れた「門前薬局排除」のための集中率規制もまぬがれることができ、意義としても実益としても資する部分は大きいといえるだろう。

 同社が設備投資や人材育成で整えてきた地域医療への取り組みにみよの台薬局グループのノウハウを加え、一層効果的な在宅医療サービスを提供するための準備が整いつつあるといえる。総合メディカルは長期ビジョンとして「日本型ヘルスケアビジネスへの挑戦」を掲げている。医療モールはこのビジョンの主眼になっており、同社の主軸として今後一層力を入れていくことを宣言している。

(つづく)
【深水 央】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:坂本 健治
所在地:福岡市中央区天神2-14-8
設 立:1978年6月
資本金:35億1,300万円
売上高:(16/3連結)1,207億7,600万円

 

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