2024年05月14日( 火 )

事業承継から3年、拡大の秘訣 受注の多角化と設計施工に挑む

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田代建設(株)

2017年9月に社長就任 現社長語る「事業承継」

Eruza Glanz 若園
Eruza Glanz 若園

 1905年創業、筑豊エリアでトップクラスの完工高を誇るゼネコン・田代建設(株)は、これまで北九州、筑豊エリアを中心に、医療・福祉施設、商業施設など数多くの施工実績を有する。

 同社は63年10月、田代英次氏によって法人化された。91年5月に英次氏の実弟・惠祐氏が代表取締役社長に就任して以降、業績を徐々に拡大していった。そして2017年9月に、惠祐氏の子息である現社長・田代洋己氏が代表取締役に就任した。明治大学を卒業した田代洋己社長は、新卒で準大手ゼネコンに入社。主に管理畑で8年間を過ごした。その後、田代建設のグループ会社で農業や就労支援事業の経営を経て、家業である同社への入社をはたす。

 「実は、田代建設を継ぐことはまったく想像していませんでした。事業承継の準備期間も1年くらいだったでしょうか。前社長がある意味退路を断ってくれたことで、私も覚悟が決まりました」(田代社長)と、社長就任時の心境について語る。準備期間は短かったものの、ゼネコンの社長業務には、現場とのリレーションや計数管理など準大手ゼネコンでの経験が大いに生きたという。「イメージをもって経営することができたのは、前職での経験が大きかったですね。それでも、社長就任から今までさまざまな軌道修正は必要でした」(田代社長)と話す。

 田代社長が継承後、一族が具体的に事業に関わることはほとんどなくなった。これについては、「前社長が会社を引き継いだ際、同族からいろいろ口出しをされたことを負担に感じたそうです。その経験があったので、私に社業を引き継ぐ際、前社長は経営に関与しないよう、役員からも外れました。当初は言いたいこともあったと思いますが、今では少し安心して見てくれていると思います」と話している。

社風の変化促す トップダウンからボトムアップへ

 前社長の基本的な方針だった「より良いものを、より安く」を受け継ぎながら、社内制度や風土を変える取り組みに着手した。まず取り組んだのが、就業規則や給与規定の見直し。社員の意識改革にも着手した。社員自らが考え行動する「自主性」「主体性」が育ちにくいトップダウン型経営から、社員の自主性を重んじ、意見や提案を吸い上げるボトムアップ型への転換を図っている。

 「トップダウンなら、社員は社長の指示に従っていれば問題ないという安心感はあったかもしれません。しかしその反面で社員は、『意見や提案をしてもどうせ却下される』『失敗や余計なことをすると怒られる』と仕事に対して受け身になり、社長に怒られないように仕事をやっているように感じました。ボトムアップの社風を浸透させることで、社員自らが考えて行動するようになれば」と田代社長は語る。

施工のみから「設計施工」へ 福岡事務所設立の狙い

ダイレックス感田店
ダイレックス感田店

 これまで北九州や筑豊エリアを中心にしてきたが、福岡エリアでの受注強化にも力を入れてきた。福岡市近郊での受注が増加してきたことから、19年8月に福岡事務所(福岡市博多区)を開設。これまであまり手がけていなかった設計業務を強化するため、3名の設計スタッフを常駐させている。設計施工に力を入れて施工の幅を広げることで、福岡市内および近郊方面、将来的には県南部方面にも事業を拡大していきたいとしている。

 すでに、福岡市南区のオフィス建設では設計施工に着手。これは、施工の打診がきっかけだったといい、設計業務は「とりあえず参加してみて」程度のコンペだったが、結果的に設計施工を手がけることとなった。「より良いものをより安く」に「良いプラン」が加わった格好だ。

 グループ会社が施主となった物件ではあるが、得意分野の商業施設でも設計施工を手がけた。商業施設は昨年7月、コロナ禍でのオープンとなったが、駐車場は満車となるなど盛況だ。土地建物はグループ会社が保有する収益物件。ほかには北九州市内でマンションなどを保有しており、グループでの収益安定化も図られている。

受注の多角化図り 官庁工事にもチャレンジ

社員とご家族さま感謝と懇親の夕べ
社員とご家族さま感謝と懇親の夕べ

 これまでは受注先を絞った営業戦略だったが、これからは建物の用途に関わらず、多岐にわたる受注先から多様な建物の受注を獲得すべく、官庁工事への入札にもチャレンジ。20年6月には地元・直方市で小学校改修工事の受注に成功した。

 田代社長は人材の育成と定着にも、とくに力を入れている。同社には20年11月時点で28名の社員が在籍しているが、うち12名は現社長が就任して以降の採用。「より深く現場に関わりたい」と、スーパーゼネコンから転職してくる人材もいるという。

 徐々に事業規模を拡大している同社だが、現在の組織では受注できる物件の規模や件数に限界がある。企業として拡大、継続するための戦略として、田代社長は次のように話す。「今の若手が成長したとき、彼らが主力になる時代が来ます。より強い組織となり、より大きな物件にも取り組むことができるようになるはずです。そうなれば、福岡事務所の存在は、いまよりもっと重要なものとなるでしょう」。


<COMPANY INFORMATION>
代 表:田代 洋己
所在地:福岡県直方市下新入627-1
設 立:1963年10月
資本金:5,000万円
TEL:0949-22-4711
URL:https://www.e-tashiro.com


<プロフィール>
田代 洋己
(たしろ ひろき)
1973年1月、福岡県直方市生まれ。明治大学を卒業後、準大手ゼネコンを経て2004年に田代建設(株)に入社。グループ会社への出向の後、15年7月に田代建設の取締役に就任。17年9月に代表取締役に就任した。

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