2024年05月05日( 日 )

九州を代表するメディアも 再生への打開策を見い出せず(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

(株)西日本新聞社

 新聞発行は、すでに採算の取れない時代遅れのビジネスモデルになってしまった。ブロック紙の雄と言われた西日本新聞も例外ではない。業績の凋落に歯止めが掛からない状況だが、再生の道はあるのだろうか。最新決算を基に同社の現状を検証する。

沈む日本の新聞社

 日本の全国紙の発行部数は世界のトップクラスという時代が続いてきたが、その背景には、識字率の高さや新聞への信用度が高いという国内事情、「ニューヨークタイムズ(NYT)」「ワシントンポスト」に代表される地方(ローカル)紙が新聞の主流という海外事情があった。日本の2トップである読売新聞と朝日新聞は、そのまま世界の2トップだった。

 だがネット社会の到来により、この構造に地殻変動が起きている。今年3月、電子版を中心とするNYTの有料購読者が693万人に達し、読売新聞の3月の朝刊発行部数687万部(ABC調査)を上回ったのだ。SNSの台頭やリーマン・ショックなどの影響から2009年には経営難に陥ったNYTは、11年からデジタル中心の展開に舵を切った。スマホファーストを推し進め、ローカル紙からの脱却を目指し、国内にとどまらず、英語圏および英語を解する読者を対象としたグローバル展開へ事業領域を変革した。その結果、11年をかけて世界最大の有料購読者をもつ新聞社として復活をはたした。

 この間、日本の新聞社は全国紙から地方紙まで、もれなく部数を減らし続けてきた。唯一の例外は日経新聞で、経済に特化した専門性に加え、電子版へのシフトが進んだことで、紙の部数は減りつつも、電子版を合わせた有料購読者は増加。実質的な部数は毎日新聞を追い抜き、読売、朝日に次ぐ3番手に浮上している。さらに新聞社を中心とした企業グループの業績でも、読売、朝日を売上で逆転した。全国紙では日経の1人勝ちといえる状況だ。

 地方紙ながら販売地域が複数の県にまたがるブロック紙である西日本新聞も、新聞業界の斜陽化には抗えず、部数は右肩下がりの状況が続いている。かつては80万部と言われた部数も、現在では42万部程度(ABC調査)にまで減少している。「押し紙」や「残紙」を考慮すれば40万部も怪しい状態だ。対前年比7~8%のマイナス部数という状況が常態化している。

 09年には山口と沖縄から撤退、18年には宮崎、鹿児島からも撤退した。佐賀、長崎、熊本、大分での販売は続いているが、各県の県紙の部数には遠くおよばない。また福岡県内でも全国紙が相応の販売数をもっており、実質的な西日本新聞の地盤は福岡都市圏と久留米地区といえる。徐々にブロック紙といえないレベルになりつつあるのが実情だ。

メディア事業は赤字続き

 西日本新聞の部数減少は、当然ながら業績の悪化につながっている。08年までの連結売上高は700億円を超えていたが、22年3月期では、その半分以下の水準となる330億円台の売上高にとどまっている。経常利益は大きく変化していないため、縮小均衡でバランスを保っているようにも見えるが、セグメント別の業績からは売上と利益の構成が様変わりしていることがわかる。

西日本新聞社 業績(連結)

 19年にグループの広告代理店だった(株)西広を博報堂に売却したことで、広告代理業としての売上がなくなった。新聞を中心としたメディア関連事業の売上高は右肩下がりで、20年からは3期連続の赤字だ。しかも赤字幅は年々拡大している。さらに細分化すると、メディア関連事業売上高275億円のうち、紙メディアが252億円、デジタルメディアとイベントが、それぞれ10億円余りとなっており、デジタルシフトもあまり進んでいなことがわかる。

 一方で、不動産業の売上と利益は上昇傾向で、本業の不振を不動産事業でカバーしていることは明白だ。バランスシートにもそうした傾向は表れており、不動産を含む有形固定資産が増加し、その見合いとして借入金も増加している。キャッシュフロー表からも借入で資金調達をし、不動産投資へ傾倒していることが読み取れる。

 次いで西日本新聞社、単独の決算内容を見てみよう。
 業績面は同社がグループの中核であるため、売上や利益の推移はグループ全体と大差ないが、バランスシートは少し違う。

 グループ全体の借入金(124億円)のうち同社がその大半(114億円)を占める一方で、現預金はわずか28億円(グループでは121億円)しか保有していない。連結の流動比率は164%であり基準となる100%以上を維持しているが、単独での流動比率は、22年に100%を割り込み、71%台にまで低下している。短期的な資金繰りにも余裕を失いつつある状況だ。連結の財務内容と単独の財務内容を比較した場合、より単独のほうが悪いのだ。

 つまりグループ全体で業績は低迷しているが、その大きな要因はメディア関連事業の不振であり、その事業の中核である西日本新聞社の財務内容が、最も痛んでいるということだ。不動産や投資有価証券などを含む固定資産が総資産の9割近くを占め、現預金が月商2カ月にも満たないというのは、業種特性と経営規模を考えれば、かなり歪な状態である。

 メディア関連事業の不振に対して、打開策を見い出せないまま不動産業で凌ぎ、資産インフレの状況に救われているというのが同社の実情だろう。

西日本新聞社 業績(単独)

(つづく)

【緒方 克美】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:柴田 建哉
所在地:福岡市中央区天神1-4-1
設 立:1943年4月
資本金:3億6,000万円
売上高:(22/3連結)335億9,600万円

(後)

関連記事