2024年05月09日( 木 )

【特別対談】福岡・建設業界の今後の行方(後)

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日建建設(株)
代表取締役社長 金子 幸生 氏

(株)R.E.D建築設計事務所
代表取締役社長 赤樫 幸治 氏

 大規模な再開発プロジェクトが進む福岡市中心部。その波及効果で周辺エリアを含め、マンションなど建設需要が高まり、福岡の建設業界は一見すると活況に見える。その一方で、地価や資材価格の高騰、建設従事者不足などという憂慮すべき要素も浮上している。そこで、福岡の業界事情をよく知る2人の経営者に、現状と今後予想される展開などについてお話をうかがった。

(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役 児玉 直)

リーマン後の苦い経験

 ──建設業界では、とくに人材不足が深刻な問題となっています。

日建建設(株) 代表取締役社長 金子 幸生 氏
日建建設(株)
代表取締役社長 金子 幸生 氏

    金子 私には人材不足について、とても苦い経験があります。リーマン・ショック後、当社は重大な経営危機に直面し、事業立て直しのため、人員削減や資産整理などのリストラを実行せざるを得ませんでした。さまざまな方々のご支援により、継続的に工事受注をいただけていたことなどから経営再建ができたのですが、14年4月に消費税率が5%から8%にアップするタイミングで大規模な工事をこれまで以上に受注できた段階で、ハタと痛感させられたのが、協力業者を確保することの難しさでした。

 経営危機で余裕のない工期や低い単価の提示などをしていたため、当社の工事を請け負ってくれる業者が大きく減ってしまっていたのです。要はそっぽを向かれたわけですが、現場を止めることはできませんから、従業員とともに私も現場の掃除に入るという経験もしました。いずれにせよ、当時は私も当社従業員も経営立て直しに必死で、協力業者の立場を考慮できず、大変失礼な態度を取っていたのです。

 これでは今後、大変なことになってしまうと考え、協力業者の方々に関する考え方やお付き合いの仕方を改めるよう決心しました。受注コストや工期をしっかりと見極めるとともに、改めて協力業者の方々とのコミュニケーションを密にして、できるだけ無理のない業務発注をするよう努めるようにしました。近年の環境では無理をお願いしなければならない状況もありますが、ありがたいことに「日建さんのためなら」と言ってくださる方が増えてきました。

 当社としてもリーマン・ショックから10年ほどの間、新卒採用が途絶え、給与アップなど利益還元も難しい状況が続きましたが、そのような状況でも会社を支え続けてくれた従業員には感謝しかありません。

 赤樫 当社は09年の個人事務所立ち上げから数えて、今年で創立13年目になります。設計業界も現在は深刻な人材難に直面していますが、おかげさまで当社では7人の従業員で業務をこなせています。日建建設の皆さまとはさまざまなプロジェクトでご一緒させていただいていますが、社長と従業員の方々が同じ方向を向いていて、社内の雰囲気がとても良いという印象です。

「信頼関係」がより重要さ増す

 ──人材確保というと、中長期的には事業を継承する人材の確保、育成、体制づくりも課題となりそうです。

 金子 当社は創業から70年以上の歴史があり、私はその3代目の経営者です。50代に入り、企業の将来像を強く意識するようになりました。ただ、私の息子は建設業とは違った職業に就く予定であり、彼が当社の事業を継承するのは現実的には難しいと考えています。とはいえ、継承する可能性もないわけではありません。もちろん、従業員が継承することもあり得ます。22年10月にNIKKENホールディングス(株)を設立し、持株会社体制に移行しました。同時に新本社ビルも完成いたしましたが、これらの取り組みは、さまざまな事業の展開や事業継承の受け皿を用意したいと考えたためです。

(株)R.E.D建築設計事務所 代表取締役社長 赤樫 幸治 氏
(株)R.E.D建築設計事務所
代表取締役社長 赤樫 幸治 氏

    赤樫 設計事務所は個人経営の色が強いため、もともと一代限りになりやすい業種です。事業継承される場合、社長の右腕と呼ばれる社員の方がトップに立つケースがほとんど。一方で、事業をたたむ事務所の多くは、社長と社員の意思疎通がうまくいっていないケースが多いようです。金子社長は兄貴肌の方で、私はさまざまな助言をいただいています。当社もいずれ事業継承について真剣に考えなければいけない時期が来るはずですが、金子社長と日建建設の従業員の方々の間で築かれている良好な関係を参考に、どうあるべきかを考えていこうと思っています。

 ──今回のお話で、福岡の建設業界の今後が決して楽観視できるものではないことがよくわかりました。最後に、これからの事業を支えるものとして、何が最も重要かを教えてください。

 金子 やはり、人と人との信頼関係に尽きますね。私どもゼネコンは、すべての関係者にとって採算性が合う受注金額を策定し、無理なく事業が進められるよう努力することが求められます。一方で近年、建設労働者は売り手市場になりました。これにより、他社のプロジェクトに移る下請業者も少なからず見られるようになりました。そして、その他社のプロジェクトが終了すると、「また御社の現場で働きたい」と来るのです。

日建建設新社屋
日建建設新社屋

    要は仕事をするうえでの基本的なパートナーシップを築けない人たちが、増えているのです。逆の視点から見ると、人材獲得競争のなかで、一部の事業主やゼネコンにそうした状況を許す風潮があるということではないでしょうか。このような状況が後々大変な事態を招くことを、私はリーマン・ショック後から痛いほど経験しています。下請の方々の働き方改革や賃金アップはもちろん重要で、喫緊の対応が求められますが、関係者全体の利益バランスも無視はできません。あえてこの場を借りて指摘させていただきました。

 赤樫 金子社長のご指摘に強く同意します。私も事業主や施工関係者の方々にとって、適正なプラン提案に努めていますが、なかには無理な要求に直面することがないわけではありません。当社としては長く事業を継続していくために、すべてのステークホルダーの満足をかなえる、品質やコストなどに優れたバランスの良い提案を常に続けていきたいと考えています。

(了)

【文・構成:田中 直輝】


<COMPANY INFORMATION>
日建建設(株)

代 表:金子 幸生
所在地:福岡市中央区六本松3-16-33
設 立:1950年3月
資本金:5,000万円
URL:https://www.nikken-co.jp

(株)R.E.D建築設計事務所
代 表:赤樫 幸治
所在地:福岡市早良区西新4-6-15 ル・リアン西新102
設 立:2009年7月
資本金:100万円
URL:https://www.redoak.co.jp


<プロフィール>
金子 幸生
(かねこ・ゆきお)
日建建設(株) 代表取締役社長
1968年4月、福岡市出身。西南学院大学法学部卒。福岡地所(株)を経て95年5月、日建建設(株)入社。2003年3月、代表取締役社長に就任。(一社)福岡市建設業協会・会長、(一社)九州住宅産業協会・副理事長などを務める。趣味はゴルフ、ランニング。

赤樫 幸治(あかがし・こうじ)
(株)R.E.D建築設計事務所 代表取締役社長
1993年、立教英国学院(イギリス)高等部卒業。97年、日本大学生産工学部建築工学科神谷宏治・川岸研究室卒業後、(株)穴吹工務店設計部入社。2009年7月に(株)R.E.D建築設計事務所設立。

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