木材の「川上」「川中」「川下」を考える(4)
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近年、「まちづくり」で木材の活用が注目され、木造の中・大規模建築物への利用・普及などの模索が国内外で活発化している。そこで今回の特集では、日本や九州、そして福岡県における林業とその周辺事業、建設業の動向を探ってみた。みえてきたのは、山積する課題はもちろん、それを上回る大きなポテンシャルだった。
住宅産業に変革の波
ところで、木材を最も多く活用してきたのは住宅産業である。少子高齢化やライフスタイルの変化などから、新設住宅着工は減少傾向にあるが、今後もニーズがなくなることはなく、大口の需要先であり続けるはずである。また、ストック(既存・中古)住宅の流通が主流になるなかで、リフォーム・リノベーションにおいて木材を活用するケースは多く、そうした意味でも今後、木材の活用先として住宅産業がはたすべき役割は大きいものであり続ける。
その住宅産業は今、木材活用をめぐって大きな変革を迫られようとしている。それは輸入材から国産材、そして地域材へのシフトである。そもそも住宅産業は地域性が強く、その担い手は工務店やビルダーなどと呼ばれる中堅・小規模事業者が多い。大手ハウスメーカーらが供給する住宅は、全体の2~3割だろう。また、鉄骨造やRC造は大手など一部が供給するのみで、日本国内で供給される住宅のほとんどが木造軸組(在来)構造、あるいは一部でツーバイフォー構造となっている。それは九州、福岡でも同様である。
ただ、市場縮小でコスト競争が激しくなるなか、木造住宅分野では省施工化、効率化の圧力が強まり、「プレカット」への依存度が高まった。木材を工場で加工し、施工現場に直接搬入、施工できるようにするものだ。工場は機械化・自動制御化され、邸別それぞれの設計に合わせて加工されるため、多くの事業者がこの仕組みを採り入れており、今や欠くことができない仕組みとなっている。
プレカット工場では、より大量に木材を加工・供給できれば、それだけ収益力が上がる。そのため、工場の大規模化が求められる一方、木材を安く仕入れられればさらに収益性を高めることができる。そこで、国内よりも安い輸入集成材が主に調達されてきた。このため構造材の主流は、海外の木材による集成材をプレカットしたものが主となっている。つまり、国内産材は主役ではないのだ。
ただ、コロナ禍で世界的に木材価格が高騰した「ウッドショック」が、様相を大きく変えた。国産材への注目度がアップし、活用が促進されたのだ。そして、もう1つ国産材活用を後押ししたのが、カーボンニュートラルやSDGsといった新たな社会指標の浸透と、それにともなう消費者意識の変化である。
なかでも、地産地消の地域材は環境に優しいという認識が消費者に浸透し始めている。住宅供給者側も企業価値を高めるために、そうした新たな社会指標に対応していることを訴求することが求められるようになり、木材調達の在り方を真剣に模索せざるを得なくなった。
林業とつながる地域工務店
「お客さまの木に関する関心、環境意識は明らかに高まっている」と話すのは、山口県と福岡県で事業を行っている(株)安成工務店(山口県下関市)の安成信次社長。コロナ禍・ウッドショックや建設資材価格の高騰を受けて、現在1棟平均単価は1割強アップしているというが、販売棟数への影響はないようだ。その理由について、「地域材などによる上質な環境共生住宅の供給に共感していただけるお客さまが増えているため」(安成社長)と話している。同社は1996年より、大分県上津江村(現・日田市)から木材を調達している。
正確な資料がないため断言はできないが、全国でも最も早い時期から産地と直接つながり、地域材による住まいづくりを始めた住宅事業者の1つではないだろうか。現地の第三セクターの林業・製材会社である(株)トライウッドと連携し、25年以上、毎年一定量のスギ材、スギ集成材を購入してきた。その結果、ウッドショックにより業界全体が木材調達に奔走するなかで、同社には「まったく影響がなかった」(同)と話している。
なお、トライウッドは大分で古くから行われていた、皮付き丸太を井桁に組んで1年間放置乾燥する「輪掛け乾燥」を復活させた。含水率25%を切った材のみ加工し、約200km離れた安成工務店のプレカットセンターに運び、さらに養生、構造材としてプレカットする。構造材として使用されるのには、伐採してから約2年後になるとのこと。それにより、高品質な構造材としているわけだ。
また、健康住宅(株)(福岡市城南区)は、2017年前後から福岡県八女市の森林組合と連携し、木材調達を行ってきた。その縁で22年8月には、コロナ感染対策を施しながら八女市の森林を見学するバスツアーを開催し、参加者に大変な好評を得たという。「子どもたちに森林や木材が生きていることを知って欲しかったため始めたものだが、とても喜んでくれた。その様子から保護者の方々を含め、環境意識が高まっていることを実感できた。今後、県産材の活用がより多くのお客さまに受け入れられるようになるのではないか」と同社の畑中直社長は話している。
ツアーには従業員やその家族も参加したという。「県産材活用は社会貢献を狙いにしている部分があるが、それにより私たちが企業価値をどのように高めていけるのか、あるいは何のために住まいの提供を行っているのかを理解し、仕事に取り組むモチベーションを高める機会にもなった」(畑中社長)といい、今後も定期的に実施する考えだ。
なお、安成工務店と健康住宅は、それぞれで山口県産材、福岡県産材による非住宅分野での活用も推進している。このうち、後者は糸島市内で木造幼稚園(平屋建)の建設を行っている。2棟の建物からなり、1棟は木造軸組、もう1棟はCLTによるもの。両棟合わせた延床面積は約1,500m2になるが、「大規模になればなるほど大手ゼネコンが有利になるなか、中規模であれば私たちのような地域ビルダーにも受注できるチャンスがある」(同)と意気込む。
(つづく)
【田中 直輝】
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