2024年05月09日( 木 )

木材の「川上」「川中」「川下」を考える(3)

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 近年、「まちづくり」で木材の活用が注目され、木造の中・大規模建築物への利用・普及などの模索が国内外で活発化している。そこで今回の特集では、日本や九州、そして福岡県における林業とその周辺事業、建設業の動向を探ってみた。みえてきたのは、山積する課題はもちろん、それを上回る大きなポテンシャルだった。

中高層木造の普及へ

 ここからは、「川下」にあたる建設業と消費者について見ていきたい。そうすることで、「川中」である製材・流通の状況も見えやすくなるからだ。

 木材活用の在り方として最も有望視されているのが、中・大規模建築物だ。このなかには中高層(4~10階建)、高層(10階建以上)も含まれ、前述した「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」施行以降、鉄骨造やRC造が必須でない限り、行政は公共建築物の多くを木造化ないし内装材における木材の活用を進めている。そして、とくにその活用に当たって注目されているのが、民間投資による「非住宅」分野である。

 欧米では、2010年前後から木造化が活発になっており、木造のオフィスビルやホテルなどでも実績がある。たとえば、その1つがノルウェーのブルムンダル(Brumunddal)という町にある複合ビル「ミョーストーネット」であり、これは18階建(高さ約85.4m)である。完成した19年3月時点で世界最高層の木造建築物であると認定されていた。その後、数々のプロジェクトが立ち上がっており、現在も同ビルが世界一かは不明だが、ここでは世界的に見ればすでに高さ100m程度の高層建築物が、木造で実現されつつあることを理解していただければ良いだろう。

 ちなみに、木材と鉄などを組み合わせたハイブリッド構造の建築物も増えており、(株)大林組がシドニーにおいて40階建(高さ182m)のハイブリッドビルを建設(22年8月発表)することも大きな話題となった。

中高層木造・日本の実例

 日本では、東京五輪で建替えられた「新国立競技場」のスタジアム外周に、木製の軒庇(のきびさし)が採用され、建築物に木材を活用する機運が一気に高まった。その結果、3階建程度の中層建築物が、幼稚園や高齢者施設などとして建築される事例が増えている。たとえば、九州で近年、建設されたものとしては、「昭和電工(大分県立)武道スポーツセンター」(大分市、延床面積1万6,126m2、地上3階・地下1階建)がある。構造材に大分県産のスギが用いられ、19年に竣工している。

木材活用の機運を高めるキッカケの1つとなった「新国立競技場」

 日本で最も高層の木造ビルは、22年3月に完成した11階建(約44m)の「Port Plus」(横浜市)で、大林組の自社研修施設として活用されている。ほかにも建設計画は相次いでおり、三井不動産(株)が東京・日本橋で計画している国内最大・最高層(地上17階建、高さ約70m、延床面積約2万6,000m2)の木造賃貸オフィスビルは、構造材に使用する木材量が国内最大規模の1,000m3超となる見込み。

 Port Plusは、すべての地上構造部材(柱・梁・床・壁)を木材とした純木造耐火建築物で、3時間耐火を実現した構造材「オメガウッド(耐火)」、鉄骨造・RC造と変わらない強度・剛性を確保するための接合法「十字形の剛接合仕口ユニット」といった独自の開発技術を採用している。部材を工場生産することで、高い施工品質を確保し、1フロアの施工期間を鉄骨造の通常10日程度から7日まで短縮するなど、施工のスピードアップも図れたとしている。

 三井不動産のビルでは、グループが北海道に保有する森林の木材を積極的に活用することに加え、構造部材に施工を担当する(株)竹中工務店が開発した耐火集成材「燃エンウッド」など、最先端の耐火・木造技術を導入することなどが特徴で、竣工は25年の予定。
 スーパーゼネコンだけでなく、ハウスメーカー系もこの分野への参入をもくろんでいる。このうち、住友林業(株)は41年を目標に、地上70階建(高さ350m)の木造超高層ビルを実現する研究開発構想「W350計画」を発表している。これは、同社が供給する木造住宅の約8,000棟分に相当する量で、約10万tのCO2を炭素として貯蔵できるという壮大なプロジェクトだ。

住友林業「W350計画」のイメージ
住友林業「W350計画」のイメージ

 ただ、日本において中・大規模建築物が普及するためには、数多くのハードルを越えなければならない。地震大国であることから耐久性や耐震性、耐火性については欧米に比べてより高い水準の技術が求められ、関連する法規制をクリアすることも必要だ。上記に挙げた各事例で独自の工法や素材が活用されているのはそのためであり、現在の建築の主流である鉄骨造・RC造のような汎用性がない。

 また、海外で中・高層建築物の構造材として多く用いられているCLT(Cross Laminated Timber=クロス・ラミネイティド・ティンバー)は、日本においてはまだ一般的なものとして普及しておらず、建築コストが鉄骨造・RC造に比べて割高になるのも課題の1つだ。

海外の中・大規模木造建築部で使用されるCLT
海外の中・大規模木造建築部で使用されるCLT

 「日本において中・大規模木造建築物の普及を加速させるためには、住宅などに使われている一般流通材で施工する、施工者としても住宅建築を手がける大工・職人が参入できるような仕組みづくりが必要」((株)AQ Group代表取締役社長・宮沢俊哉氏)など、指摘する関係者もいるくらいだ。同社は現在、新本社ビルを建設中であり、8階建の高層棟を含めた3棟を純木造で建築するとしている。完成・移転は24年の予定。計画が発表された21年10月の時点で、「(上記のような仕組みを導入することなどで)一般的な高層木造ビルの3分の2程度の費用で建築できるようにする」としていた。

AQ Groupが建設中の新本社ビルの外観イメージ
AQ Groupが建設中の新本社ビルの外観イメージ

 これらの課題はあるものの、中高層の木造建築物が普及するメドはある程度立ってきている。商業用途でニーズが高い10階建程度の建物の木造化のためにも、中高層分野での建築技術の確立と実績づくりを急ぐべきだ。日本全体でもそうだが、福岡県、とくに福岡市ではそれがいえる。市の中心部は航空法の規制で高層建築物への建替えに強い制限がかかるため、もともと中層建築物が多いためだ。以上が、中・大規模木造建築物をめぐるざっとした日本の現状だ。

(つづく)

【田中 直輝】

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