木材の「川上」「川中」「川下」を考える(2)
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近年、「まちづくり」で木材の活用が注目され、木造の中・大規模建築物への利用・普及などの模索が国内外で活発化している。そこで今回の特集では、日本や九州、そして福岡県における林業とその周辺事業、建設業の動向を探ってみた。みえてきたのは、山積する課題はもちろん、それを上回る大きなポテンシャルだった。
日本林業の50年
ウッドショックを経て、林業などの「川上」、製材・流通業などの「川中」、建設業と消費者などの「川下」の各者には、「木」の活用に向けて前向きなムードが漂っている。ただ、それぞれの立場や地域によって取り組みや考え方の方向性にバラツキもある。では、各者はどのような状況にあり、課題を抱えているのだろうか。まずは、川上から見ていこう。
九州・沖縄8県にある森林の約2割(約53万ha)に相当する国有林の管理経営を行う九州森林管理局は、持続的な林業の確立に向けた取り組みとして森林の整備に注力している。そのために必要な作業を確認することは、国有林のみならず民有林を含む林業が置かれる全体像を知るうえで役に立つはずだ。
同管理局によると、作業には木材搬出のために必要な道を整備する「路網」づくり、木材をすべて収穫し森林の若返りを図る「主伐」、次世代の森林を造成する再「造林」、密度調整する伐採を行い、残存木の成長を促進する「間伐」などがあるという。何より大変なのは、その過程を絶えず繰り返さなければ健全な森林を維持できないこと。とくに路網づくりは、林業の難しい状況を象徴するものといえる。
伐採する森林は50年以上前に植樹されたものばかり。当時は日本人の所得と比べて木材は今より高額で取引されており、林業就労人口も多かった。しかし、現状では山元の立木価格と比べて再造林にかかる経費が大きく、再造林を行ううえでの課題となっている。
伐採はもちろん、再造林するにも人手が重要で、作業は険しい山中における重労働である。しかも、賃金も必ずしも高いといえない状況にあるため、当然のことながら人材難でもある。森林資源を循環利用し持続的な林業とするためには、新たな技術の開発と普及が必須であり、森林経営の低コスト化も求められる状況となっている。前者については、森林資源のCO2吸収能力向上のため、スギ・ヒノキに比べて成長が早く収益化しやすい早生樹「センダン」などの樹種によって再造林すること、「コンテナ苗」(専用コンテナで養苗され培地付きの苗。従来の手法に比べ活着が良く植栽適期が長いなどの特徴がある)の普及などが進められている。
後者についても、路網と高性能林業機械を組み合わせた、低コスト・高効率な作業システムの導入などにより、伐採から造林までを一体的に行えるシステムの実証と普及について九州森林管理局が取り組んでおり、当然それは国有林以外でも模索されている。人材不足も深刻化しているなかで、いわゆる林業の「スマート化」が必至な状況であり、ドローンや航空レーザー計測、リモートセンシングなどのICTを活用した省力化、効率性向上の試みも行われている。
これは、従来までの森林経営がいかに人的な部分に頼り切っていたかということの裏返しでもある。そうした先端技術の普及がおよんでいない森林は、これまで半ば放置された状況にあり、林業とその周辺事業の衰退を招いていた。なかでも大きな課題となっているのが、コストである。
日本の森林のほとんどが山地にあるが、その一方で海外、なかでも北米や欧州の森林は平原にあり、日本に比べれば効率的、低コストで伐採、管理ができる。また、日本の住宅事業者の求めに応じた高品質な木材の供給と、加工を行うなどの取り組みが推進されたこともあって、最も需要が多い住宅の構造材は、海外で加工済みの集成材が主となり、国産材・地域材は一層激しいコスト競争に晒され、活用を阻害されてきた。
その結果、林業衰退、森林管理が行き届かない状況、そして集中豪雨や台風などの災害における環境への悪影響、人命や財産を脅かす事態の多発につながっており、まさに負のスパイラルとなっている。「国土保全・安全保障上の観点からも森林が担う役割はより重要になっている」(福岡県森林組合連合会 代表理事会長・横田進太氏)という状況だ。
(つづく)
【田中 直輝】
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