2024年05月18日( 土 )

木材の「川上」「川中」「川下」を考える(1)

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 近年、「まちづくり」で木材の活用が注目され、木造の中・大規模建築物への利用・普及などの模索が国内外で活発化している。そこで今回の特集では、日本や九州、そして福岡県における林業とその周辺事業、建設業の動向を探ってみた。みえてきたのは、山積する課題はもちろん、それを上回る大きなポテンシャルだった。

(左)福岡の森林(右)材木市場の様子
(左)福岡の森林(右)材木市場の様子

森林資源に恵まれた日本

 そもそも、なぜ今、木材の活用が注目されているのだろうか──。それは「木」が再生可能な自然素材であり、地球温暖化の要因とされる二酸化炭素(CO2)を吸収・固定化する素材であり、カーボンニュートラルやSDGs、ESG経営などといった新たな社会指標が浸透するなかで、その存在へ注目度が高まっているからだ。木は光合成により大気中のCO2を吸収して炭素として取り込み、それは伐採され木材となっても蓄えられたままで、建築物や内装材、家具などに活用することでCO2は長期間固定され、排出されない。

 建築素材などとしてこれまで幅広く使われてきた鉄やコンクリートは、生産や建設、運送、解体にあたって多くのCO2を排出する。それらを木に置き換えることは、地球温暖化防止の観点から大変効果があるものとみられている。

 供給源となる森林は国土の保全、水源の涵養(かんよう=水を蓄えること)、それによる崖崩れや水害などの災害防止、生物多様性の保全、そしてもちろん地球温暖化の防止にも大きく貢献している。森林に足を踏み入れる人々に癒やしを与えるという点では、健康な暮らしへの貢献も見逃せない。

山には水を蓄え、水害の発生を防ぐ機能がある

    難点もある。森林は継続的に植樹・間伐・伐採を行わなければ、建築などの素材として適した良質な木が育たない。少なくとも50年という息の長いサイクルで取り組まなければ維持されないのだ。2020年の「ウッドショック」は記憶に新しいが、木材供給が滞ったからといって、直ちに森林を伐採すれば良いというものでなく、また実際にそうはできない。

 自然素材であるため、木は品質が一定ではないという側面もある。建築資材などとして活用するためには、高度な乾燥・加工技術が求められるし、安定した供給には大規模な加工工場や先進的な流通システムも必要になる。より大規模な木造建築物を建てるためには、耐火・耐震などの性能を高めるための技術開発も求められる。

 とはいえ、木材の供給源となる森林が日本には豊富にある。林野庁によると、日本の森林面積は約2,510万haで、国土面積の約3分の2を占めるという。国連食料農業機関(FAO)によると、世界の森林率の平均は約30%、OECD加盟国のなかでフィンランドに次いで世界第2位あることを考えると、日本は大変恵まれている。ただ、残念ながら木材の国内自給率は約4割前後にとどまっているのが現状だ。

 なお、林野庁・九州森林管理局によると、九州全域には約277万haの森林があり、全面積の約7割を占める。森林のうち民有林は約223万ha、国有林は約54万haで、温暖多雨な土地柄上、九州全体が住宅の建築資材として使われてきたスギやヒノキの生育に恵まれた地域なのだという。

 こういった豊富な森林資源を活用するため、国は2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を施行した。これは国が率先して木材利用に取り組み、地方自治体や民間にも取り組みを促すことを狙いに、従来まで非木造建築が主流だった公共建築物の木造化・木質化を推進するものだ。

 21年10月には同法を一部改正し、木材利用促進の対応を公共建築物から民間建築物など幅広い建築物に拡大する、「脱炭素社会実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」という名称に改めた。都市開発において近年、10階建程度の中高層建築物が木造、あるいは鉄骨と木材のハイブリッド造などにより建設されるケースが少しずつ見られるようになってきたが、それにはこうした動きが関係している。福岡県も「福岡県内の建築物等における木材の利用の促進に関する方針」を示し、県下自治体も同様の動きを行っている。

 ここで、福岡県の森林の状況はどうなっているか確認しておこう。「福岡県農林水産業・農山漁村の動向-令和3年度 農林水産白書」によると、福岡県の22年4月時点の森林面積は約22万ha。全国的には決して大きくはないが、実は民有林に占める人工林の面積割合を示す人工林率は全国2番目の規模である。人工林のうち、スギ・ヒノキ林は約11万haと大半を占め、このうち全体の8割以上が樹齢41年以上の利用期を迎えたものとなっている。

 つまり、福岡県は木材の供給源が充実しているということだ。

(つづく)

【田中 直輝】

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