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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (61)
経済小説
2011年2月17日 11:34

<札幌駅前物件の行方>

何しろ、飛行機のなかまでは携帯電話の電波は飛んでこない... その頃、会社にいても自宅にいても銀行の担当者から電話がかかってくる毎日であったため、時折の東京出張が貴重な気分転換のときであったのは確かである。何しろ、飛行機のなかまでは携帯電話の電波は飛んでこない。通常であれば福岡空港に降りた後、そのまま自宅に帰ってつかの間の休息を楽しむところであったが、いろいろとやり残した仕事があったため、空港から会社に立ち寄った。そこで積みあがった書類に目を通していると、営業の課長が私の席にやってきた。この課長は、どちらかといえば一匹狼的なタイプで、営業のなかでは、やや疎んじられている存在であったが、しかしなかなか成績を上げていた若者で、私のところには常日頃何かと相談にきており、私もいろいろと教えてやっていた。

「常務、いよいよ札幌駅前の土地の条件提示がありましたよ」
「あっ、そう。例の財閥系の札幌支店にいってきたと?」
「いえ、東京支社長がいってきました」
「それで、いくらだった」
「5億円です」

 私は、目の前が真っ暗になるのを感じた。5億円では、会社のすべての預金を足しても、この土地の関わる融資を返済することはできない。融資を返済できなければ抵当権を抹消できないので、売却することはできないのである。

 6月以来、銀行融資を毎月借り替えながら、この財閥系不動産会社との商談に希望をつないでいた。実際に十数億円という価格を提示し、建物の構造計算などを含めたデューデリジェンスをしていただいてきていた。9月に予定されていた相手先からの価格提示も延期され、契約締結が不安視されていたが、結果はそのようなことであった。もちろん、当社は今回の商談に関して、相手先と何らかの価格の契りをしていたわけではないので、やむを得ない。ただ、気持ちはやるせなかったものだ。
 黒田会長からは、この物件について、直ちに2番手の購入候補先(地元商社)との商談を進めるよう指示があった。このようなときにもうろたえることなく、次に希望をつないでいくのは上に立つものの重要な職責である。そして、私自身も、想定していたシナリオに沿い、決意を固めていった。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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