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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (126)
経済小説
2011年4月24日 07:00

<票固め>

 いよいよDKホールディングスの民事再生手続も終盤となった。
 当社は、6月10日に福岡地方裁判所に再生計画案を提出した。裁判所は提出された計画案を精査し、監督委員には意見書を提出させる。監督委員は意見書を提出するために補助者である公認会計士をして、当社の再生計画案を精査させ、その意見を参考として裁判所に意見書を提出する。

 監督委員から指示があったといって、市内の会計事務所の公認会計士が調査のために来社した。以前の財産評定の提出の際も同じ会計士が見えて、その際も私はオープンに対応していたためか、すでにある程度の信頼関係もできていたようだ。会計士は、再生計画案をすんなりと理解し、監督委員に対して問題はなさそうとの意見を上げてくれた。
 これを受けて監督委員は7月に入ってすぐ、当社の再生計画案は債権者に諮るべき、という簡潔な意見書を提出した。これで民事再生手続の最後のヤマである債権者集会に向けてのレールが敷かれることとなった。

そこで私は、約80人の債権者の内訳を確認してみた... 債権者集会とは、裁判所が主催し民事再生案件の債権者を集め、当社が提出した再生計画案を審議したのち、可決または否決する機関である。そこで債権者の総議決権の2分の1以上および出席者の過半数の賛成が得られれば、晴れて再生計画が認可される。認可されれば再生債権額の96%の額が免除される。その後11月に4%強を弁済し、その後、DKホールディングスは清算する......というのが今後の流れの骨子である。
 このうち議決権基準というのは「再生債権額基準」と言い換えたほうが分かりやすい。再生債権の総額の50%以上の賛成が得られることを要する。一方の「出席者基準」は、債権者の人数基準で過半数の賛成を要する。議決権基準は、総額を分母としてカウントするが、出席者基準では「債権者集会に出席もせず、議決票も提出しない人」は欠席とされ、分母にカウントされない。

 そこで私は、約80人の債権者の内訳を確認してみた。
 議決権を持つ債権者数は約80人となっていた。そのうち議決権基準では、当社の再生債権の大半は銀行借入であるため、もう銀行の理解をいただくよりはほかなかった。銀行には代理人の森永先生が、再生計画案の提出とほとんど同時に説明に回り、そこでの異議はほとんど聞かれなかった。また、岩倉社長が物件の売却で銀行と折衝する中でも、主要な銀行から「当行は、基本的には賛成の方針です」というコメントを得てきた。森永先生によれば、通常、銀行債権者は債権者集会の当日まで態度を明らかにしないという話であったが、すでに担保不動産の売却が完了し、再生債権額が確定している銀行や、債権者集会に足を運べない東京の銀行などの一部は、書面で賛成票を投じてきていた。このため、議決権基準は、満たされることが確実と考えてよかった。

 問題は、出席者基準である。債権者の過半数の約50名が物件の入居者の敷金債権者であった。過去の経験によればこの人たちは、当社が管理していたワンルームなどのマンションに入居していた若者が多く、過去の債権者説明会などにもほとんど出席がなかった。いわば無党派層である。ところが昨今はマスコミなどで賃貸マンションの敷金問題に対する風当たりが強いため、不意に大勢の入居者債権者が反対票を投じると、出席者基準で再生計画案が否決される可能性もあった。
 そこで私は、残留している4人の役員で債権者に対する多数派工作を行なうこととした。
 岩倉社長は懇意オーナーおよび一部の不動産販売の取引先、中井常務は建築および不動産管理に関する取引先、私は入居者のうち法人・社宅契約などで比較的話をしやすい債権者および総務周りの取引先......とそれぞれ担当を決め、再生計画案への賛成をお願いして回った。
 その効果はてきめんに現れ、債権者集会の直前までに出席者基準の約40%の票を事前に固めることができた。集会当日に無党派層である入居者債権者の大半が出席し、反対票を投じることはまずあり得ないため、再生計画案は通るであろうとの認識を持つに至った。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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