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大さんのシニア・リポート~第10回 高齢者が騙されるというけれど(1)
行政
2013年3月19日 13:44

 3月12日、4,500万円という巨額な金を、甥を名乗る男の代理人に手渡すという詐欺事件があった。2,100万円を金融機関から引き出し、家にあった2,400万円を加えたと70代の女性は答えている。「見知らぬ男に簡単に大金を手渡してしまうという神経が信じられない」と人はいうだろう。でも、実は簡単に手渡してしまうものなのである。それが「オレオレ(振り込め)詐欺」の詐欺たる所以なのである。「詐欺師は状況に鍵をかける」。つまり被害者を突然異次元に誘い込み、一瞬にして閉じ込めてしまうのである。「嘘いえ!」といいたいのだが、実はわたしがこの被害に遭った。これが何よりの証拠である。

book.jpg 実に恥ずかしい話なのだが、本当に騙されたのだ。「オレオレ詐欺」にひっかかってしまったのである。わたしはその時まで15年にも渡って、悪徳・詐欺商法について検証してきた。その間、2冊の本の企画編集に携わり、『悪徳商法 あなたもすでに騙されている』(文春新書)を上梓した。放送・文字媒体や講演会などを通して「悪徳・詐欺商法」にひっかからないよう具体的な例を挙げて啓蒙してきた。いってしまえばその道のプロといえるだろう。当然「プロである自分が騙されるはずがない」という自負心・矜持もあった。そのプロが「オレオレ詐欺」に、いとも簡単にひっかかってしまったのだ。穴があったら云々どころではなく、恥ずかしくて生きていくことが辛かった。この体験が今回『騙されたがる人たち 善人で身勝手なあなたへ』(講談社)を上梓させた。

 5年前の秋、北海道にある競走馬の生産者牧場で働いている二男から電話が入った。「携帯電話の番号が変わったので、教えておく」という。その日は新しい電話番号を伝えて切れた。翌日、再び二男から電話が入る。「友人から金を借りて株を買ったが、今日中に借金の返済を求められた。何とかならないか」という。焦ったわたしは丁度入ったばかりの印税のうち、20万円を振り込んでしまったのだ。二男であることを少しも疑わなかった。
 後で気づいたのだが、 まるで「オレオレ詐欺」の推移そのものなのである。そのことを十分に熟知しているはず。なのに、騙されたのだ。知っているのに騙される?そう、騙されたのである。この明らかに矛盾している状況を的確に説明するのは実に困難を極める。一言でいうなら「体験したことのない世界に閉じ込められる感覚」とでもいおうか。不思議な力で身動きが取れない状況下に置かれるのである。こう説明する以外に「騙される」という状況を説明できない。

 「クロースアップ・マジック」(トランプやコイン、お札などを利用して観客の目の前で演じるマジック)の専門家であるゆうきとも氏の著作に『人はなぜ簡単に騙されるのか』(新潮新書)がある。そのなかで、「占い師、霊媒師、超能力者、宗教家、詐欺師、政治家、マスコミ、要は相手を『騙す側に立つことのできる』すべてのジャンルにとって、この世の中は有利にできているものなのです」と述べている。
 つまり、騙される側は最初からハンディキャップを強いられているのである。勝ち目はない、はずなのに、人はそう思わない。とくに高齢者は思わない。「オレオレ詐欺」の被害者の大半は高齢者であるのは、騙す側が息子や孫を騙るからだとばかりはいえない何かがあるのである。「何とかしなければ」という強い思いの片隅にある「騙されるはずがない」という被害者のプライド、それと、「騙せないはずがない」という詐欺師のプライドがガチンコ状態で対峙するのが「オレオレ詐欺」である。

 「息子の声がわからない親は失格だ」という人がいる。でも、わからないのである。わたしも二男の声だと確信していた。NHK総合テレビで、「息子の声当て実験」を見た。そのとき大半の母親が聞き間違えたのである。立正大学教授西田公昭氏(社会心理学)によると、「人間の耳は、音声だけでは誰の声か正確には判断できない。実際は、声や話し方の特徴を手がかりに、当てはまりそうな人を脳内で探していくという。(中略)一度思い込んだら、人はつじつまの合う話や都合のいい話ばかりを求め、おかしな点があっても無視してしまう」(「朝日新聞」平成24年9月5日)と話す。
 思い込み。これが曲者なのだ。でも、最終的に判断するのは自分ひとりだから、思い込んだら命がけ状態に陥る。高齢者はとくに頑固なほどプライドが高い。自分そのものを完全否定されることを極端に嫌う。自分の考えを優先させるために、事実を無視する(隠す)場合も少なくない。同じ詐欺師に何度も騙されても、被害届を出さない例が後を絶たないのはそのためである。「オレオレ詐欺」や「架空請求詐欺」など、これだけ世間を騒がせていながら、件数も被害額も氷山の一角といわれているのは、この「錯覚したプライド」が災いしているのである。

(つづく)
【大山 眞人】

≪ (9・後) | (2) ≫

<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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