不動産市場のCO2ゼロ、再エネ化の動向「RE100」やESG投資を視野に(前)
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ヒューリック
自社保有物件を再エネ100%化
使用電力由来のCO2排出量の実質ゼロを目指し、太陽光発電などの再生可能エネルギーを電力に活用する動きが不動産大手企業で見られる。
ヒューリック(株)は2020年12月7日、自社で保有するすべての賃貸建物で使用する電力(電力使用量約370GWh)の100%再エネ化に向けて、FIT制度(固定価格買取制度※)を利用せず、自社で保有する太陽光発電所(非FIT)の開発を推進し、小水力発電の開発を開始すると発表した。2050年の使用電力由来のCO2排出量ゼロ実現に向けて、約1,000億円を投資する。
ヒューリックは、非FIT太陽光発電所を活用して「RE100(再エネ100%)」基準の対象となる「ヒューリック本社ビル」(中央区日本橋)や子会社オフィスの使用電力約60GWhを100%再エネ化して、25年にRE100の達成を目指す。
※:再エネで発電された電力を国が定めた価格で一定期間、電気事業者が買い取る制度。
RE100
企業が自らの事業で使用する電力を100%再エネで調達することを目指す国際イニシアティブ。国際環境NGO「The Climate Group(TCG)」が投資家向けなどに企業の環境情報を提供する国際的NGO「CDP」と提携し、14年に発足した。世界で280社以上が参加し、そのうち日本企業は約46社(20年12月現在)。地球温暖化の原因とされるCO2を発電時に排出しない太陽光、風力、水力、バイオマスなどの再エネを利用することで、CO2など温室効果ガスの排出量を減らし、将来的に脱炭素社会(カーボンニュートラル)社会に移行することを目的とする。
日本でのRE100への参加企業は、積水ハウス(株)、大和ハウス工業(株)、戸田建設(株)、大東建託(株)、東急不動産(株)、旭化成ホームズ(株)、ヒューリック(株)、(株)LIXILグループ、(株)安藤・間、三菱地所(株)、三井不動産(株)、住友林業(株)、(株)ノーリツなど(同)。RE100への参加条件として、海外または国内で認知度や信頼度が高いこと、または電力消費量50GWh以上(日本企業)などがある。
環境や社会、ガバナンス(企業統治)に配慮した取り組みを行う企業を重視して投資するESG投資が世界で拡大しており、不動産投資ではCO2排出量の削減への取り組みが海外投資家の判断材料の1つになっている。そのため、不動産投資の基準として、建物に対する環境性能を評価する「CASBEE(建築環境総合性能評価システム)」や、不動産会社・ファンドなどの環境配慮を評価する「GRESB」などの環境認証が用いられている。国内のESG投資(サステナブル投資)残高は310兆円(20年3月、JSIF調べ)。
ヒューリックは20年10月に、サステナビリティ(ESG)目標を達成するかによって利率が変わるESG関連社債「サステナビリティ・リンク・ボンド(以下、SLB)」100億円(クーポン利率0.44%、発行年限10年)を発行。通常は資金使途が限定されない債権だが、今回はRE100目標達成などの資金に充てる。「25年にRE100達成」目標は、同社が定めた重要な業績評価指標(KPI)とともに、SLB評価対象の「事業挑戦目標(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット、SPTs)」の1つとなっている。
自社保有の太陽光発電で使用エネルギーゼロ化
ヒューリックは、太陽光発電などを開発・販売する(株)アドバンスと提携して、埼玉県加須市で非FIT太陽光発電所の第1号物件(計画値面積1万2,522m2、発電規模1,311kW)をつくり、20年10月から発電を開始した。ヒューリックと一部のグループ会社のオフィスとなるヒューリック本社ビルの年間電力消費量をカバーできる再エネを発電する。本社ビルは、自然採光や自然換気などで一般的なビルに比べてエネルギー使用量を約40%削減。使用エネルギーの残り60%に再エネを活用して、間接的に使用エネルギーを実質ゼロとする。
ヒューリックは14年に福島県双葉郡広野町、15年に茨城県笠間市大古山町、16年に千葉県山武郡横芝光町で、FIT制度を利用したメガソーラー(大規模太陽光発電所)を取得してきたが、20年からはFIT制度を利用せずに事業性を確保した太陽光開発を開始した。ヒューリックは21年、自社で運営するホテル、旅館に電力の再エネ化を広げる計画だ。
また、ヒューリックはアドバンスと提携し、21年9月に群馬県利根郡で小水力発電(199kW)の第1号物件の稼働を予定している。さまざまな発電方法をバランス良く組み合わせて電力を安定して確保する「エネルギーミックス」の観点から、比較的高稼働な安定電源である小水力発電の開発にも取り組む。今後、ほかに国内2カ所で小水力発電所の開発計画を進める見通しだ。これらの小水力発電はFIT制度を適用して開発するが、FITによる電力の買取期間(通常20年間)の終了後に、今回の計画に組み入れるという。
これらの非FIT太陽光発電所や卒FIT小水力発電所で発電された再エネ100%の電力は、小売電気事業者のヒューリックプロパティソリューション(株)(以下、HPRS)が調達し、ヒューリックの自社保有物件に直接供給される仕組みだ。自社保有の非FIT太陽光発電所から自社で供給する100%再エネ化により、石油や石炭などの化石燃料で発電された電力の料金と同等の金額で、再エネを扱うことが期待されるという。
HPRSは、電力小売自由化後に参入した電力小売事業者「新電力」の1つ。使用電力の再エネ化に向けて、再エネ由来の電力の割合が高い新電力と契約するケースも増えてきており、全国の電力販売量のうち、新電力が占めるシェアは16.2%(電力・ガス取引監視等委員会「電力取引報結果」、20年4月)。
RE100基準にFIT含まれず
FITは電力の買取にかかる費用の一部が再エネ発電促進賦課金(税金)により負担され、CO2を排出しない環境価値に対してすでに対価が支払われているため、RE100の基準に適合する再エネとするためには、「非化石証書」や「J-クレジット」などの証書で環境価値を購入する必要がある。そのため、使用電力の再エネ100%化では、非FIT再エネやFITによる電力の買取期間を終えた「卒FIT」再エネも利用されやすい。
(つづく)
【石井 ゆかり】
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