2024年05月10日( 金 )

22年下半期 福岡市の開発動向、中央区の計画戸数が復調(後)

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【南区】変貌を遂げる大橋駅周辺

OHASHI HILL
OHASHI HILL

    南区の計画戸数は、22年上半期比で254戸減となる367戸にとどまった。しかし、南区の中心市街地であり、西鉄天神大牟田線・大橋駅を中心とする大橋エリアでは、再開発が盛況を博している。大橋駅から徒歩2分程度の場所にあった西日本シティ銀行大橋支店跡地には、(株)コーセーアールイーの分譲マンション「グランフォーレ大橋駅前レジデンス」(RC造・地上15階建、延床面積6,691.95m2、全83戸)が誕生。大橋駅至近の音楽・演劇練習場「ゆめアール大橋」跡地では、えんホールディングスがスーパーやジムなどが入る地上6階建の複合施設「OHASHI HILL」を計画しており、今後は大橋エリアを起点に南区全体へと再開発機運が波及していく可能性はある。

 注目される物件は、(株)AHS(飯塚)による「(仮称)五十川2丁目ビル」。大橋駅から自転車で10分圏内の場所で、周辺にはドラッグストアやコンビニなどもあり、相応の生活利便性が確保されている。設計者は照栄建設(株)で、建築物の概要はRC造・地上8階建、延床面積2,120m2のワンルーム外31戸。

五十川2丁目ビル
五十川2丁目ビル

 このほか、個人および(株)一陽企画による「(仮称)大橋3丁目プロジェクト西棟・東棟」も注目される。建築物の概要は、西棟がRC造・地上5階建、延床面積950m2、ワンルーム外11戸。東棟がRC造・地上5階建、延床面積1,350m2、ワンルーム外16戸の計27戸となっている。

【西区】開発続く学園通線沿線エリア

 上半期の800戸に迫る勢いも落ち着き、22年下半期の計画戸数は456戸となった西区。JR九大学研都市駅から九州大学伊都キャンパスを結ぶ学園通線沿線では、今春オープン予定のヤマダデンキや複合商業施設が建設中で、新たなロードサイド店舗によるさらなる賑わい創出が期待される。

福岡市西区北原・田尻1街区マンション
福岡市西区北原・田尻1街区マンション

 下半期、西区最大の計画戸数となった大和ハウス工業(株)の「(仮称)福岡市西区北原・田尻1街区マンション」も学園通線沿線の物件。建築物の概要は、RC造・地上14階建、延床面積5,983.74m2のワンルーム187戸。このほか、(株)グランディアによる「愛宕3丁目プロジェクト」(RC造・地上14階建、延床面積1万5,000m2、ワンルーム外154戸)などの開発が計画されている。

 近年は姪浜以西エリアでの開発が目立っていたが、下半期は前述の愛宕3丁目プロジェクトのほか、20戸以下の小規模物件ながら姪浜でも複数計画が立てられるなど、西区全体で緩やかに開発が続いている。

【城南区・早良区】不調の城南区と躍進の早良区

 城南区と早良区の22年下半期における計画戸数は、それぞれ28戸(上半期比198戸減)、536戸(同157戸増)となった。早良区が上半期の6位から4位に躍進した一方で、城南区は上半期に続き最下位となった。

 早良区では定番の西新に加えて、福岡市地下鉄空港線・室見駅まで徒歩10分程度の南庄エリアでの開発が目立った。注目される物件は、西日本鉄道(株)の「(仮称)サンリヤン南庄1丁目」(RC造・地上4階建、延床面積2,419.79m2、ワンルーム外21戸)、(株)フージャースコーポレーション(東京都千代田区京)の「(仮称)西新5丁目計画」(RC造・地上12階建、延床面積2,263.41m2、ワンルーム22戸、ワンルーム外22戸の計44戸)。このほか、西部ガス都市開発(株)が「(仮称)室見マンションPJ」(RC造・地上5階建、延床面積1,015m2、ワンルーム外6戸)を計画している。

室見マンションPJ
室見マンションPJ

 計画戸数が30戸未満となった城南区だが、七隈・別府エリアにおけるワンルームの木造アパート計画は複数あることから、学生向け賃貸だけでない住宅需要を喚起できるエリアへの脱皮が、将来を見据えたまちづくりのカギといえそうだ。

3月に七隈線延伸開通、橋本から博多へ

地下鉄路線(都心部)
地下鉄路線(都心部)

    福岡市地下鉄七隈線の天神南~博多駅間(約1.4km)が3月27日に開通する。櫛田神社前駅といった新駅の誕生によって博多旧市街や大型複合施設「キャナルシティ博多」などに訪れやすくなることで、延伸エリア周辺における開発にも拍車がかかるはずだ。

整備中の櫛田神社前駅
整備中の櫛田神社前駅

    駅名が櫛田神社前駅となった理由は“お櫛田さん”の愛称で市民に広く親しまれていることに加えて、櫛田神社に毎年奉納されている「博多祇園山笠」が、ユネスコ無形文化遺産に登録されていることなどから、観光客をはじめ、多くの人が同エリアを訪れるため。駅名にも採用することで、利用者の利便性向上、ひいては地下鉄の利用促進につながることが期待されている。同駅が設置されたのは、はかた駅前通り側の博多区祇園町。隣接エリアの上川端や冷泉町では、近年、店舗やマンションなど、さまざまな物件開発が計画された。一部を以下に紹介していく。

 店舗・事務所では、ラ・アトレによる「(仮称)博多祇園プロジェクト」(S造・地上8階建、延床面積711.91m2)。建築主が個人の「(仮称)博多駅前テナントビル」(S造・地上3階建、延床面積90.05m2)や、「宮前迎賓館灯明殿別館」(S造・地上4階建、延床面積200.033m2)。(株)ジャリアによる「(仮称)祇園オフィスプロジェクト」(S造・地上11階建、延床面積7,824.21m2)など。

 コロナ禍ではあるものの、ホテルも計画された。西日本鉄道による23年4月開業予定の「西鉄ホテルクルーム博多祇園櫛田神社前」(RC造・地上13階建、延床面積8,006.31m2、全55室)だ。櫛田神社前駅に寄せられる期待感の高さがうかがい知れると同時に、駅チカという立地が、いかに開発誘引力をもっているかも痛感させられる。

 七隈線に関しては、福岡空港までのさらなる延伸も検討されているが、地域からの要望という点では、七隈線の起点であり、最西端の駅でもある橋本駅から姪浜駅までの延伸を求める声も少なくない。七隈線で橋本~姪浜間が結ばれれば、同区間中にある学校や職場に通う市民の交通利便性は向上する。同区間中には学校が数多く、橋本駅から先の福岡大学へのアクセスも一本で済むようになるため、橋本~姪浜周辺エリアの学生への恩恵は大きい。また、姪浜駅はJR筑肥線とも結節しているため、姪浜以西から通う市民にとっても住居や働き方など、ライフスタイルの選択肢が増えることになる。

 ただし、七隈線と空港線では線路幅などの規格が異なるため、直接接続させることはできない。西鉄天神大牟田線・福岡(天神)駅と福岡市地下鉄空港線・天神駅のように、乗り換えるかたちで対応するのが現実的だろう。もしも実現すれば巨大な環状線が形成され、新たな沿線商圏の誕生にも期待がもてるため、民間投資の誘発につながるかもしれない。

中央区の逆襲なるか23年上半期

 22年下半期は、博多区が変わらぬ強さを見せつけた。23年度の後半には、西鉄天神大牟田線・雑餉隈~春日原駅間に「桜並木駅」が開業するため、前半から新駅周辺での開発が勢いづくことは想像に難くない。

 中央区では、ついに旧大名小学校跡地に「福岡大名ガーデンシティ」がオープンする。事業者の大名エリアでの開発意欲を高め、更新期を迎えるテナントビルなどの再開発が進めば、これまでの若者向けファッション&グルメというエリア特性に変化がもたらされるかもしれない。

 隣接する天神エリアでも、引き続き天神ビッグバンを契機とした「天神一丁目15・16番街区」計画や、北別館跡地活用事業の計画変更による「メディアモール天神(MMT)」跡地との一体再開発など、大型再開発事業が複数控えている。地価や労務単価・建築資材価格の高止まりなど、決して課題がないわけではないが、23年上半期以降も福岡市のまちづくりは活発に進むものと考えられる。

(了)

【代 源太朗】

(前)

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