2024年05月21日( 火 )

責任感から共感へ、日本が誇る「配慮主義」(1)

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参照)日本の地域資源 日本観光文化研究所HP
参照)日本の地域資源 日本観光文化研究所HP

 日本では出生数が年々減ってきている。2022年、年間出生数が80万人を初めて割り込む予測が出るなか、東京都は“チルドレンファースト”社会の実現に向けて新たな少子化対策を打ち出した。0~18歳の子どもに対し、1人5,000円/月を切れ目なくサポートする子育て支援策を行う挑戦だ。ここが手を入れられる最後のチャンスなのではないか。本来国がやらなければならないことだが、ここで手を打たなければ日本はダメになる。だから東京都はやるのだと。

【3世代人口動態 例】
■団塊世代(1947~1949年生)…約270万人/年
■団塊Jr後半世代(1980年生)…約150万人/年
■次世代(2021年生)…81万人/年 
※2022年は年間出生数80万人を初めて割り込む予測。次世代からすると最上位に座っている多数の群衆は、約4倍近い差がある。

日本が参照すべきモデルは

 中国の人口が22年に、建国以降初めて減少した。中国が米国を抜いて世界一の経済大国になるとの目標も、経済低迷で国民からは悲観的な見方もあり、「世界一の大国になる」という既定路線は大きく揺らぎ始めている。23年にはインドが中国を抜いて、世界一の人口大国になる見込みだ。人口ボーナスの時期はすでに過ぎ、経済成長率の低下は避けられないが、資本主義で成功し独裁的にきちんと統治ができている中国という国が“次世代モデル”になるのではないかという熱い視線もある。

日本はどこへ向かう?
参照)日本文化紹介映像
独立行政法人国立文化財機構HP

    自由や民主主義を叫べば国づくりができる時代は、終わった。日本はアメリカの民主主義や経済モデルを取り込み真似てきたが、今後世界で参照すべきはアメリカや日本ではなく、中国ではないかというのだ。では、日本が参照すべき次の国はどこだろう。

 コロナ禍も丸3年が経とうとしている。激動の世界情勢のなか、民主主義や資本主義の危機と言われているこの国の未来を、“日本人の尊厳“と“未来の産業像”というアプローチからのぞいてみたい。

民主主義の代替主義

 民主主義は、手順を踏んで1人の人間が独裁にならないように、ゆっくり時間をかけて決断していくシステムだ。その「遅さ」が何よりの価値であるが、今はその遅さを享受することが許されない。また、それ自体がミスマッチな時代にある。形式的な書類をつくるだとか、コンテンツをつくる前の工程の取りまとめに8割の時間を割き、2割しか最終的な成果を出せないという慣習が、日本全体を地味に疲弊させている。

 今日よりも明日を良くするために懸命に働き、成長し、分配して、中間層を増やすことで、日本は豊かになってきた。かつて一億総中流階級と謳われたこの国の尊厳や国力も、現在の平均年収443万円(21年)/世界ランキング22位に下降し、失われつつある。2000年時点ではアジア諸国で最も平均年収が高い国だったが、20年後には韓国に抜かれた。GDPが世界3位であるのにも関わらず、平均年収が世界22位という結果は、日本経済の停滞を意味している。

 年収400万円以下の国民が全体の4割にも上り、日々の生活も苦しいなかで、食費や教育費を捻出する。「生活がカツカツで安心できない」「年収が低くて子どもをもてない」「SDGsは金持ちの道楽だろう…そんなこと気にしていられない」と叫ぶ国民が半数近くにおよぶのに、生活に困窮する人に手を差し伸べられないこの国は、一体どうなってしまったのだろうか。

日本の平均年収2021  厚労省資料
日本の平均年収2021  厚労省資料

“インボリューション”の時期

 日本の根源的な病魔は2つある。1つは「既得権益を動かせないこと」、もう1つは日本社会に蔓延る「中抜き構造」だ。

 社会問題や政策に多くの税金が使われたとしても、“中抜き…中抜き…中抜き…”により実際の現場には2~3割の予算しか届けられない。それは同時に、生産性の低い会社や人間を温存し続ける。また既得権益が鎮座している限り、より生産性の高い産業にシフトできないという弊害もある。この2大巨頭「既得権益+中抜き構造」に役人(官僚、政治家)が天下り、彼らに依存して政策が立てられる。この30年、この循環がずっと、もはや無意識的に続いている。「政治」の存在意義を別のものに置き換えられないだろうか。実行効力の高い別のタスクフォースがその権力階層を押し下げ、別のエンジンが発明されないだろうか。

 「人を助ける/人に助けてもらう」という善行は、ある程度おせっかいの世界に引きずり込む/引きずり込まれる必要もある。そのおせっかいをしてもらうために個人の情報や個々の状態・状況を開示し、自分たちの自由をある程度国家や行政に受け渡す準備も必要だ。「そのような個人の自由をどうするのか」という大きな意味での“国の形”を論じることも重要だろう。

 経済政策もさることながら、日本の成長分野を探求する必要もある。外側への開発が地球規模で限界に近づき、今や開発の矛先は宇宙へ飛び出した。現状はインボリューション(内側へ向かう発展)の時機にあり、新しい開発フロンティアを開拓する前の、既存のものを見直す期間だ。シェアリングエコノミーや、プロセスエコノミーなどもその部類に入るだろう。

プロセスエコノミー
尾原和啓

    これから新たなイノベーションが生み出され、産業として稼働し、マジョリティに支持されていくためには、もう少し時間がかかりそうだ。今足元で日本ができることは、過去から蓄積してきた富や文化、有形遺産や無形の栄光をインバウンドに向けて、グローカルに向けて発信する。歴史、自然、観光、食など祖先から受け継いできた貴重な価値を、日本への滞在を促して食いつなぐ。その間に次の世代へ残していける新しい産業を発掘し、太らせていく作業を並行してやることだろう。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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