2024年05月20日( 月 )

責任感から共感へ、日本が誇る「配慮主義」(2)

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独自モデルは「配慮主義」

 人口減少時代においては、生産性・成長を維持していく経済モデルに転換していく必要がある。具体的には、日本より人口が少ないドイツやフランスなど欧州を例に、独自成熟型を目指すべきではないか。自動車業界を例に挙げると、フォルクスワーゲン傘下には売上高に占める割合の大きい「VW」「アウディ」「ポルシェ」など10車種のブランドがあるが、ポルシェの21年の販売台数は約28万台で約50億ユーロの営業利益があった。一方、「VW」ブランドの売上は約457万台で営業利益は約25億ユーロ。VWで台数と売上高を、アウディとポルシェで利益を稼いだ。販売台数が少なくても独自の価値を付加して、高価格で提供する。

ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京 公式HP
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    日本にとっては、こういった「高品質なものを高付加価値で売る」モデルを取り込み、徐々にスイッチしていく必要がある。これを“欧州型”と呼んだが、もっと日本独自のジャパンモデルを確立していくのが良いと思う。たとえば、日本人独特の人間性を考慮した「配慮」という概念。「配慮主義」のようなもの。「忖度」や「同調」は相手を“思いやる”という善意が行き過ぎたゆえ、良くないイメージがついてしまったが、本来は「気配り、調和、共感、融合、想像」といった、繊細で包括的、協調性のなかにこの国の尊厳が表されていたはず。このモラルや特性を再認識し、世界で戦える有用な武器として“付属的な主義”を民主主義にトッピングしてみたい。

資本主義のアップデートも重要

 同時に資本主義もアップデートされなければならない。代替される命題は「サステナビリティ」だ。資本主義は売上を上げてしっかり稼ぎ、株主に貢献するという使命があるが、サステナブル主義は、会社も社会も利益(売上)ファーストから、サステナビリティ・ファーストへの転換が必要だ。

 近く「2025年問題」という事象が起こることになっている。これは約800万人の団塊世代が75歳を迎え、日本がいよいよ「超高齢化社会」に突入することで出てくる諸問題のこと。社会保障コストの問題など、より深刻化することが危惧されている社会課題のことだが、25年は同時にミレニアル世代(2000年以降に20歳を迎える世代)がようやく主権を握るときでもある。生産年齢人口(15~64歳)の2人に1人が、ミレニアル以降の世代になるのだ。デジタルネイティブが社会一色になるそのタイミングが25年であり、それ以降の情報拡散スピードは劇的に変わっていくだろう。この世代が社会の中心に立ち、数で優位に立てば、DXやGXは急速に進む。デジタルネイティブは同時にソーシャルネイティブ(社会課題に向かうモチベーションが高く、そこに働き甲斐・生き甲斐を感じる)世代でもあるから、利益追従からサステナビリティ前提へ、まさに「サステナブル主義」へ方向転換が加速されていく。

サステナブル主義へいこう

_時代は反転させられるか 黒いけむり、さようなら 参考文献:川崎市HP
時代は反転させられるか
黒いけむり、さようなら
参考文献:川崎市HP

    そこから本格的にデジタルとサステナビリティの時代に大きく変わる。その世代が社会の消費者になり、また生産者側に、経営幹部や意思決定者たちへ同期するころ、今苦境に喘いでいるファーストペンギンたちは、ようやく報われていくことになるだろう。「あの会社儲かるけど、全然地球に優しくないよね」といわれる会社もたしかに残るだろう。しかし、変われなかった会社に足を運ぶ優秀な人材は、確実に少なくなっていく社会になっていくのだ。

 資本主義は“次世代資本主義”へ変わらざるを得ない。これ以上地球に負担をかけてCO2を排出し、カーボンニュートラルから遠ざかっていくなかで大儲けし、住めない地球でお金をたくさん持って、「いったい何がしたいんですか?」という思考が2人に1人にある。機関投資家も、生活者の行動思考も、すべてがサステナビリティ・ファーストへ意識を変えていかなければならないのだ。

 「人は何のために毎日生きるのか。」──私は“人とコミュニケーションするため”だと思っている。個々の責任感を全うし、古い価値観のなかでガチガチに身動きが取れなくなっている人も多いのだろうか。ただ、ちょっと周りを見渡してみてほしい。気軽に話しかけられる味方が1人や2人くらいいないだろうか。そんな人と少し“地球”について話してみてほしい。対話が生まれるように事が運べば、それがすでに「共感」という芽吹きが生まれていることと同義なのだと思う。

「責任感の時代が終わり、共感の時代が訪れた。
 先に到着したものが規則をつくる」

~優雅な一族~

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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