2024年05月20日( 月 )

責任感から共感へ、日本が誇る「配慮主義」(3)

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「配慮主義」で何ができるのか。
“配慮する”ことで、以下いくつか未来の産業界を提案してみたい。
①“伴走力”でミスマッチに配慮する「コーチング経済」
②サステナブルで職住環境を推し量る「コミュニティ産業」
③自然や環境に地球規模で配慮する「建設技術」
④その他注目している産業界

(1)“伴走力”でミスマッチに配慮する「コーチング経済」

“コーチング”という経済圏

学習をサポートするクラウドサービス事例 埼玉県立小川高等学校HP
学習をサポートするクラウドサービス事例
埼玉県立小川高等学校HP

    コーチングは、スポーツの世界ではよく知られた手法だ。コーチは選手の才能を引き出す。選手のやる気を高め、練習によりもっとうまくなりたいという向上心を育てる。よりうまく、強くなるために適正な個別メニューを提案するだろう。その結果、才能を引き出された選手は自信をもって試合に臨めるのだ。

 今、社会は大きく動いている。インターネットで社会はグローバル化され、価値観も大きく変わってきた。これからの世界で生きていくためには、今後もどんどん変化する世の中に適応していく力が必要だ。それこそがまさに「生きる力」。「生きる力」を育むため、また正しい選択をしていくために、自分に合った「コーチ」なる存在が必要なのだ。

伴走者はあなたのアドバイザーになる。
伴走者はあなたのアドバイザーになる。

    またコーチは何もスポーツの世界だけでなくとも、さまざまな状況において一般知識やアドバイスを求めたいとする場面は多い。たとえば学校教育において、教師はこれから「Coach=伴走する人」になっていくといわれる。デジタルデバイスが教室のなかに取り込まれ、教材コンテンツが発信される画面上で講座を進めていけば、より生徒に近いリアル教師は生徒の目線で一緒の画面を見る。ティーチングに主眼を置いていた先生の役割は、より生徒をモチベートするコーチ的メンターに変わっていくことで、質の高い接触が図られ、子どもたちへの個別指導が濃密になる。これがデジタル社会の学校像だ。

経済消費は“コーチング消費”へ

 自分の人生のなかに訪れるイベントや習慣、購買や選択というシチュエーションで、自身とともに一緒に歩んでくれるアドバイザーともいえる伴走者の存在は、非常に重要視されてきている。

 学校教育、英語学習、保険や病気に関する対応、病院や医師の選別、服選びやレストランのレコメンド需要、家を買う(建てる)高額商材購入時の相談事案など、アドバイスや背中を押してくれる“コーチングディレクター”なる存在が心強く、またミスマッチを防いでくれることで無駄な消費(生産)を抑えることができる。

 コーチングビジネスは、広義のジャンルにおいてインボリューションのなかに含まれている。モノ消費からコト消費、そしてイミ(意味)消費へ移っていくVUCA時代、口コミや紹介、アドバイザーのコーチング的な需要は、“単なる消費活動”から“誰かに推されて消費していくコーチング消費”へとアップデートされていくような気がしてならない。

【コーチング経済の事例】

GIGAスクール構想 文部科学省HP    1人1台端末の整備と合わせて、学習用ツールと校務のクラウド化を目的とした次世代学校構想(文部科学省主導)。デジタル教科書やデジタル教材コンテンツや、個人の学力に合わせて提示されるAIドリルなどICT技術を活用したもので、個別最適化された創造性を育む教育の実現を図る。


プログリット 公式HP    英語の“完全パーソナルトレーニング”のサービス。その人に合った個別カリキュラムの選考、学習スケジュール管理、毎日のチャット相談・添削、振り返りの面談など、目標を達成するまで個別コーチが伴走しサポートする。


エアークローゼット 公式HP プロのスタイリストが選んだ服をユーザーの自宅へ届けるファッションレンタルサービス。提案と選別、発送までをスマホで手軽に受けられる。

 

(2)サステナブルで職住環境を推し量る「コミュニティ産業」

“原則出社”で企業から人が去る

 「テレワーク廃止なら会社を辞める」という人が増えているようだ。テレワークの人気は依然高い。転職を考える労働者は「テレワークが許される企業であれば、今の仕事の給与から5~10%の減給になるとしても応募する可能性がある」と、スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授はいう。労働市場は過熱していて、もう間もなく人材争奪戦争の時代に戻る。テレワークを許容しない企業は、「従業員に非常に高い報酬を支払うことで退職を防がなくてはならない」と同氏は指摘した。従業員に対して何が何でも出社を求めたいのであれば、企業は給与を上げる必要がある。それができないのであれば、離職率の増加を覚悟するしかないと。

 Microsoftの調査でも、管理職クラスの82%がオフィスへの回帰問題を憂慮していると回答している。しぶしぶ始めたリモートワークやハイブリッドワークに慣れた今、再び通勤電車に揺られて自宅と会社を往復するのは腰が重い。一度手に入れた自由を手放すのは至難の業で、もはや自由でフレキシブルな働き方なしには会社の存続すら危ういのだ。

 また、マッキンゼーによる調査報告書では、コロナパンデミックが終わった後、管理職・知的専門職の7~9割でリモートワーク化が適用されていくだろうと示唆する。デジタル化が進み、電話よりもチャット、対面式よりも画面越しで十分に事足りるようになってきたと感じているZ世代やミレニアル世代。彼らに出社を促すのは、もはや不可能とすら思えてならない(一部では人に会うという価値は必ず残るだろうが)。今は本格的に職住環境を考え直さなければならないときで、中央集権型からデジタルを活用したリスク分散型の仕組みに移行しなければならない。「逆都市化」のなかで、彼らを引き付ける空間体験をどうつくれるか。それもやはり、デジタルがカギを握っている。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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