2024年05月20日( 月 )

路地のまち福岡・春吉

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柳橋連合市場
柳橋連合市場

昭和の街並み残る

 福岡市民でも「春吉」という地名からイメージできるのは、柳橋連合市場くらいではないだろうか。エリア的に春吉は、那珂川の西岸で柳橋連合市場から国体道路までを指すのだが、天神にも中洲にも博多にもキャナルシティにも近く、好立地の割にランドマークとなるものがほとんどない。実際に行ってみると、自動車が通れるくらいの道の両脇には飲食店などの路面店が並ぶが、これといって特徴のないまちだ。

 その一方で、一本入り込むと細い道が入り組み、古い住宅も多く残っている。そして自動車も入れないような細い道の奥まったところまで、小さな飲食店がたくさんある。すでに廃業した旅館跡もあった。レジャーホテルもちらほら。つまり「春吉」とは、路地にこそ特徴があるまちといっていいだろう。

空襲の被害少なく

 天神は天神ビッグバン、博多は博多コネクティッドと再開発が進むなか、春吉ではほとんど再開発の話を聞かない。なぜ春吉には、今なお昭和の街並みが残っているのか──春吉公民館の館長・米倉雅子氏に話を聞いた。同公民館には20年以上前に地域の有志がまとめた「春吉・清川 今昔物語 文献並びに聞き書・覚え書」が書籍として残っているとのこと。米倉館長からの紹介で、執筆・編集に関わり当時の同公民館・主事である郡島郁子氏からも話をうかがうことができた。

春吉・清川 今昔物語 文献並びに聞き書・覚え書
春吉・清川 今昔物語 文献並びに聞き書・覚え書

    まず気になる春吉の細い道については、「昔の福岡市内は、どこもあのような細い道で住宅は入り組んでいた」(米倉館長)とのこと。春吉が現在もその姿を変えていない理由は、「福岡大空襲の際に、爆撃の被害から逃れることができたからではないか」(米倉館長)と答えてくれた。

 次に、細い道のかなり入り込んだところまで飲食店や旅館があることについては、前出の「春吉・清川 今昔物語 文献並びに聞き書・覚え書」に手がかりがあった。同書によると、春吉のすぐ隣のまちである清川(旧町名:柳町)には、1911(明治44)年から遊郭があった。妓楼が49軒あり、娼妓は600人以上いたという。45(昭和20)年6月19日の福岡大空襲でまちの3分の1が焼失、さらに46(昭和21)年1月24日には公娼廃止例がGHQから発令された。それでもまちは賑わい続けたが、58(昭和33)年4月1日の売春防止法の施行を前にした3月15日、妓楼は一斉に廃業したようだ。その後、映画館や劇場、デパートをはじめとして、多くの店も閉店していったとのこと。

 ここからわかることは、清川や春吉は遊郭とともにそこで働く人および遊ぶ人のために、大小の飲食店や娯楽施設が発展してきたということだった。そして現在も残る古い飲食店は、遊郭廃止後も生き残った店か、その名残で新しい店が入ったということだ。それがわかれば、周辺地区に古くから料亭などがある理由も腑に落ちた。

意外と充実したまち?

 その昔、合法の遊郭は「赤線」、非合法で飲食店の登録しかしていないものは「青線」と呼ばれていた。小さな部屋の旅館などが細い道の奥まったところにあり、現在もその名残がほんの少しだが見られることから、春吉周辺にも青線が存在したのかもしれない。各店の経営者はできるだけ秘密にしていただろうし、非合法なので記録も見つけられなかった。そういった理由からも、まちはどこか雑多なイメージだけが残っている。

 ただ、現在の春吉を歩いて見て回っても、遊郭の名残はほぼ見つからない。北側は高層のワンルームマンションが立ち並び、南側はアパートが多く建てられている。「中洲で働いている人は春吉に住んでいる人が多いよ」と中洲の風営法対象店で勤務する女性が教えてくれた。たしかに夕方に春吉を歩いていると、これから出勤らしい独特の化粧の女性をちらほら見かけるので、完全に的外れの意見ではないようにも感じる。

 ポータルサイトで同程度のワンルームマンションの家賃を見てみると、隣接する「渡辺通」よりも「春吉」のほうが家賃相場は安いようだ。天神にも博多にも中洲にも近いうえに飲食店も多く、家賃も安いとあって、単身者には暮らしやすいまちではないだろうか。「春吉はもっと見直されても良いまちなのではないか」というのが、春吉にそれほど詳しくなかった福岡市民である筆者が、改めて抱いた感想だった。

【外部ライター・奥野 晃市】

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