2024年05月20日( 月 )

人工知能(AI)が世界を支配する時代の到来か(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

人工知能 イメージ    事程左様に、技術の進歩には限界がありません。とはいえ、その副作用もあります。たとえば、アメリカの一部の学校では、生徒たちが授業中に何を考えているかを把握するソフトウェアを導入しています。生徒の眼球の動きを読み取り、生徒が授業に集中しているかどうかを判断するというのです。その先には、生徒の頭の中にも入り込む可能性が指摘されているわけで、恐ろしい限りとも言えます。

 加えて、AIの普及と進化は間違いなく雇用に影響を及ぼすことが想像されます。米ゴールドマン・サックスの分析では「現在の仕事の4分の1はAIで代替が可能である。全世界で3億人のフルタイムの仕事は自動化される」とのこと。

 生成AI関連の市場規模は2022年の90億ドルから2027年には1,210億ドルに膨らむとの予測が専らです。いわゆる「生成AI大淘汰時代」の幕開け宣言に他なりません。こうした事態が進めば、チャットGPTを使いこなせる人とそうでない人との格差は広がるはずです。経済的にも社会的にも無視できません。

 さらには、チャットGPTの開発者である「オープンAI」のアルトマンCEOが危惧するように、「AIが人類存亡の危機をもたらしかねない」という問題も指摘されています。「オープンAI」を創業したアルトマン氏ですが、4月には岸田首相と面会し、日本政府に対して「AIの進化と実装」に関する提言を行いました。

 また、6月にも再度来日し、ソフトバンクの孫正義会長らとビジネス連携について協議を進めています。しかも、その足で韓国やインド、シンガポールも訪問し、ユン大統領やモディ首相とも会談するというAI外交に飛び回っているようです。というのも、AIの進化は止めようがありませんが、その副作用として「何が真実か分からない世界が生まれている」との危惧が広がり始めているからです。

 誤った情報や偏った意見が広まり、社会的な分断や対立が引き起こされる可能性も否定できません。場合によっては、SNSがテロや犯罪を誘発する恐れも指摘されるほどですから。チャットGPTはあっという間に2億人ものユーザーを取り込んでしまいました。確かに便利で安価なツールです。

 とはいえ、ネット上の過去の情報を収集して回答を生成するため、ネット上にフェイクニュースが蔓延した場合には、ウソの情報が正しいものと判断される可能性が出てきます。たとえば、トランプ前大統領が得意のSNSでフェイクニュースを発信し続け、多くの支持者がそれを拡散すれば、いとも簡単にトランプ正当論をチャットGPTが受け売りすることになるでしょう。そうすれば、ウソが真実に転換してしまいます。

 アルトマン氏らはそうした危機的状態を回避するための方策が欠かせないと主張。これにはイーロン・マスク氏も同調しています。というのも、ウクライナ戦争を始め、環境問題やエネルギー・食糧危機への対応も思うに任せない人間たちでは「地球の未来は危うい」と自己判断したAIが、「地球のために人類を淘汰する」といった決断を下す可能性も否定できないからです。

 いうまでもありませんが、人とAIの共存共栄のためには、我々人類が主導権を維持できるかどうかにかかっているように思えます。AI に丸投げでは、人類の未来はないことは火を見るよりも明らかです。

 しかし、アルトマン氏は自ら明らかにしていませんが、「影の世界政府」と異名を取るビルダーバーグ会議にも深く関与しています。キッシンジャー元国務長官はじめ、NATOのストルテンベルグ事務総長、ウクライナのクレバ外相、ファイザーのブーラ社長、世界経済フォーラムのブレンデ代表らが定期的に会合し、デジタル社会の未来図を描いているようです。

 世界のエリートを自認する指導者がAIを操り、人類の未来を左右しようとしているわけで、看過するわけにはいきません。日本を重視するアルトマン氏の本心はどこにあるのでしょうか?

(了)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
    国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

(中)

関連記事