2024年05月20日( 月 )

「LINE問題」は日韓の政治外交上の火種になるのか(前)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉明鎬 氏

世間を騒がす「LINE問題」

イメージ    LINEに対する日本政府の行政指導が日韓の話題となり、「LINE問題」の行方に注目が集まっている。

 日本政府の行政指導で、ソフトバンクは運営元であるLINEヤフーの中間持株会社の保有株を韓国IT大手ネイバーから買い取る交渉を進めることになり、ネイバーはLINEの経営権を失いかねない状況となった。

 ことの発端は個人情報流出だったが、「LINE問題」は資本関係の見直しまでもたらそうとしている。ソフトバンクが今回の交渉でネイバーの保有株を買い取り、50%以上の株式を獲得するようになると、ネイバーは結果的にLINEの経営権を失うこととなる。

 LINEは韓国の大手IT企業であるネイバーが日本に子会社を設立し、サービスを開始したメッセンジャーアプリである。ネイバーは韓国における検索サービスの最大手で、日本でも最初は検索事業を展開したものの、うまく行かず苦労していた。

 そのような状況下、東日本大震災という大地震が発生し、電話やショートメッセージでは家族や親戚の安否が確認できないという混乱が発生、LINEが連絡手段として有効であることがわかり、LINEは普及し始めた。今現在、日本のLINEのアクティブユーザー数は9,600万人くらいで、携帯電話を使っている人はほとんどLINEを使っているような状況である。

 韓国企業のネイバーは、独自に日本で金融事業などを展開するのは難しいと判断し、ソフトバンクと2021年に提携することとなる。ソフトバンクとネイバーは50%ずつ株式をもつAホールディングスを設立し、同社はヤフージャパンとLINEを実質支配するZホールディングスの株式65%を保有する筆頭株主となる。その後、ヤフーとLINEを事業統合し、社名を変更してLINEヤフーとなる。

 LINEは日本、韓国、台湾、タイなどでも使われ、世界で約2億人が使っているメッセンジャーアプリである。LINEヤフーは総務省の行政指導によりシステム運営の委託先であるネイバーの役割を縮小させようとしており、ネイバーとのシステムの切り離しや経営体制の見直しを総務省から要求されている。

 AI社会の到来でデータの重要性が叫ばれるなか、日本政府も個人情報の海外流出やデータ使用の主権などに気づき始め、その方向に動いているようだ。

問題の発端は

 問題の発端は個人情報の流出である。まずネイバーの子会社からセキュリティに関わる業務を委託していた会社がサイバー攻撃を受け、マルウエアに感染。LINEヤフーはネイバーの子会社にサーバーやソフトウェアなどのITインフラの運用を委託しており、LINEヤフーとの間でシステムの認証基盤が共通化されていた。委託企業の感染によってネイバー側が不正アクセスを受けた結果、システムを介してLINEヤフーも被害にあい、LINEヤフーの個人情報が大量流出した。

 日本の総務省はシステム業務をネイバーに委託した現在の体制はセキュリティ対策が不十分であるとして、2度目の行政指導を行い、セキュリティガバナンスの強化と資本関係の見直しを求めた。ネイバーは独自の再発防止対策についての報告書を4月1日に提出したが、総務省では「対策が不十分」だと判断し、2度目の行政指導では体制の見直しを含めた厳しい要求を出した。

 昨年11月に発生した51万件の個人情報流出に対して総務省はソフトバンクに出資比率の引き上げなどで、日本企業が経営権をもつことによる再発防止を促している。今回の問題で日本の国民のほとんどが使用しているLINEに海外企業が関与していることへの懸念が広がっている。

 一方、韓国ではセキュリティ問題を口実に日本政府が強引に経営権を奪おうとしているのではないかという批判が沸き上がっており、韓国の外務省も、この問題が日韓の外交問題に発展するのではないかと注視している。

(つづく)

(後)

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