2024年05月20日( 月 )

ウエルシア社長、不倫報道で電撃辞任 ツルハとの統合キーマン失脚(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 「晩節を汚す」とは、今まで評判が良かった人が、人生の終盤で過ちを犯して、評判を落とすことで、有名企業の会長や社長など功なり名を遂げた人が失脚した際に使われる。不倫やセクハラ行為で失脚する経営者が後を絶たない。石油精製最大手ENEOSホールディングスの経営トップが2年連続でセクハラ失脚したばかりだが、今度はドラッグストア最大手ウエルシアホールディングス社長が、不倫報道で電撃辞任した。

イオン主導でウエルシアとツルハが統合

イオン イメージ    イオンの岡田元也氏は、ウエルシアの創業者・鈴木氏の「遺言」である「日本一のドラッグストア」を実現するために最後のカードを切った。

 ドラッグストア首位のウエルシアHD(東京都)と2位のツルハHD(札幌市)は2月28日、2027年12月末までに経営統合すると発表した。イオン、ウエルシア、ツルハの3社のトップがツルハの本拠地である札幌市で共同会見した。統合後は売上高2兆円超のドラッグストアの巨大連合が誕生すると報道各社は一斉に大々的に報じた。

 報道によると、イオンはツルハ株を13.59%保有しており、さらにツルハ株を13%程度保有する投資ファンドのオアシス・マネジメントから株を追加取得してグループ会社にする。そのうえで、ツルハがウエルシアを株式交換で子会社とする。統合後の会社のトップには統合時点のツルハの代表者が就く。

統合に向けてツルハの背中を押した「物言う株主」

 統合を実現するために、イオンがツルハに譲歩した格好だ。

 イオンは旧ジャスコ時代から、各地のドラッグストアに1~3割程度出資。ウエルシアやツルハなど11社と組織する連合「ハピコム」をまとめ、医薬品など自主企画品の共通化や人材育成で協力してきた。

 だが各社とイオンとの連携には温度差がある。地方のドラッグストアが力をつけてきて、「ハピコム」から離脱する動きを強めた。約13%出資するツルハも、中国地方の準大手を買収するなど独自路線に舵を切った。

 イオンが子会社に組み入れたウエルシアとツルハは、ドラッグドラッグストア首位を争うなど敵対している。ツルハはイオンと距離を置くようになる。

 ツルハの背中を押したのは「物言う株主」のオアシスだった。昨年6月に株主提案書を送り、「創業家支配の不適切な企業統治体制になっている」と経営陣を批判。創業一族の鶴羽樹会長と鶴羽順社長の親子の同族体制が続いていることを問題にした。このとき、ツルハを支持したのがイオン。ツルハはイオンと手を結んだ。

 オアシスは高値売り抜けを狙ってイオンを呼び込むことを狙った。イオンはツルハを呼び戻すために、ツルハがウエルシアを子会社化し、統合会社の社長もツルハから出す案を受け入れた。とはいえイオンはツルハ株を追加取得して子会社に組み込む腹づもりだ。M&Aの最前線では、キツネとタヌキの化かし合いさながらの虚々実々の駆け引きが繰り広げられているのである。

売上高2兆円超の巨大ドラッグストアの誕生

 ウエルシアの24年2月期の売上高は1兆2,173億円、本業の儲けを示す営業利益は432億円(売上高営業利益率3.5%)。ツルハの24年5月期(予想)の売上高は1兆330億円、営業利益は472億円(同4.5%)の見込み。単純合算して、売上高2兆2,503億円、営業利益904億円(同4.0%)規模のメガドラッグストアが誕生する。

 最大のライバルであるマツキヨココカラ&カンパニー(以下マツキヨと略)の24年3月期(予想)の売上高は1兆300億円、営業利益755億円(同7.3%)の見込み。ウエルシア=ツルハの統合会社はマツキヨの倍以上の規模となる。これで「勝負があった」という印象を受けるが、それほど単純ではではない。

株式市場でマツキヨココカラの評価が高いわけ

 株式市場はどう見ているか。5月1日の終値時点の株式時価総額で見てみよう。ウエルシアは4,823億円、ツルハは4,893億円。対してマツキヨは9,684億円。ウエルシアとツルハはマツキヨの半分程度の企業価値にしか評価されていない。売上では断トツのウエルシア=ツルハだが、必ずしも圧勝とはいえない。

 なぜか。売上高営業利益率を見ればわかる。マツキヨが7.3%に対して、ツルハは4.5%、ウエルシアに至っては3.5%とマツキヨの半分にも満たない。

 これはマツキヨが医薬品・化粧品を主力商品としているドラッグストアとして「正統派」だからという背景がある。そして国内の最重要マーケットである首都圏中心部と京阪神中心部を抑えているからだ。訪日外国人は、首都圏と京阪神中心部のマツキヨの店で医薬品と化粧品を購入するのが通常の消費行動だ。

 ウエルシアが名実ともに「日本一のドラッグストア」になるのは容易ではない。飽和状態の国内から飛び出し、アジアなど海外に進出することになるだろう。

(了)

【森村 和男】

(前)

関連記事