2024年05月06日( 月 )

良好な住環境を促進する地域ルール「建築協定」(後)

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 建築基準法や都市計画法とは別に、地域住民合意のうえで、まちの形成に関わる地域独自のルールを定めた「建築協定」。福岡市における建築協定の現状と事業者が注意しておきたいポイント、建築協定の活用例を紹介していく。

事業者が注意するポイント

 建築協定の基準で「用途」の制限を行えることを利用し、福岡市内の建築協定地区では実に84%もの地区でワンルームマンションを直接、間接的に規制している。もちろん協定地区以外で協定に従う必要はないが、過去には協定地区から道を挟んだ場所でのマンション建築計画が訴えられた例もあるという。

 福岡市内の建築紛争の予防や調整も行っている開発・建築調整課の担当者はこう語る。「建築協定を締結しているだけあって、協定地区の住民は住環境への関心が高いです。事業者は協定地区が近くにあるかどうかを確認し、もし近くに協定地区がある場合は、予め説明期間や長めの工期を設定しておき、住民に誠心誠意対応した方が、結果的に計画がスムーズに進みやすいです」。

建築協定を生かしたまちづくり

西中洲地区の路地

 事業者には建築計画にとってのハードルのように思える建築協定だが、この仕組みを生かして地域のブランド化に成功した事例がある。

 福岡市中央区の西中洲地区は、老舗の名店や高級料理店が立ち並ぶ大人の隠れ家として人気がある地域。この地区では04年に建築協定を締結し、地区内での風俗店、パチンコ店、ゲームセンターの新規出店やネオンサイン広告を禁じた。

 「以前はこの地区にも性風俗店があった。町内会で話し合って市に相談したところ、建築協定を締結したらどうかと市側から提案があり、締結に向けて動いた。昔から独特の風情がある地域だったが、今もその雰囲気を保ち続けていることに対しての建築協定の影響は大きい」と、西中洲地区の町内会長で運営委員会の会長も務める松下善一氏は語る。

 協定締結後は「西中洲でお店を開いて成功したい」という人や業者の数が増えたという。建築協定は後から土地を取得した者にも効力がおよぶが、西中洲という地域の魅力を理解したうえで承認を受けに来ることが多く、建築協定の順守にも協力的だという。ただし、西中洲地区の特徴として、実際に地区内に住んでいる住民が少なく、地区外にいる運営委員や地権者などが多いため、運営委員会で建築計画が承認されるまで時間がかかるそうだ。

 現在、西中洲地区は福岡市が進める天神ビッグバンの奥座敷と位置づけられ、市主導での石畳による道路整備と景観誘導が計画されている。これは建築協定を利用したまちづくりの成果といえるだろう。

 新たに建築を行う際や不動産取得の際に、建築協定がある地域かどうかの確認は欠かせない。それはまちづくりに関わるものとしての責務であり、結果的に事業を円滑に行うことにもつながっていく。

(了)
【犬童 範亮】

 
(前)

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