弱みを生かした福岡の都市づくり再考「遅い開発」と中古市場の親和性(3)
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新築信仰という慣習
日本の住宅は1960年代までは設備も良くなく、地震に対しても弱い住宅だったので、壊しては新しく住宅を建てる新築政策を推し進めてきた。しかし、81年の新耐震基準ができたころから、安全で品質の良い住宅が提供される時代になった。
新築を減らすと日本のGDPが減少するので好ましくないとする“新築信仰”の見方もあるが、中古中心の政策に未来がないと見るのは誤りだ。アメリカは中古中心の市場だが、日本と比べて住宅関連投資が少ないかというとそうではない。引越しやすい、売買しやすい政策を進めると、住宅を住み替える回転が増える。新築件数は減っても住宅の維持管理、リノベーション需要が増える。現代であれば、空間シェアというマーケットも浮上してきた。Airbnbやスペースマーケットのようなところで人気のある物件を、所有オーナーが売買する際には、その資産価値を評価するようなシステムも導入されていくだろう。
500兆円問題
スマホの普及によって、低額から気軽に投資ができる時代になった。20~30代の若い人たちも、ゲーム感覚で小口の資産運用に乗り出している。しかしこの割合は40代になるとぐっと下がるようで、よくよく調べてみると、どうやらお財布事情が関係しているようだ。40代世代は住宅購入によってデットとアセットがロックインされてしまい、余剰資金や運用資産がなくなる。つまり、家を買うと自由に使えるお金がなくなる。
アメリカでは、過去50年間で投資した1,400兆円の不動産投資は、そのまま1,400兆円の資産として残っている。一方、日本では上物(建築)の価値がどんどんと目減りし、投資した額よりも資産価値が下がっていく。投資した900兆円という価値は、500兆円の上物を抜いた土地の価格400兆円の資産しか残っていないというわけだ。いわゆる“500兆円問題”である。
アメリカや欧州などでは、リノベーションを繰り返すことで価値が上がっていく文化だが、日本では30年後には土地の価値しかなくなる文化だ。流通しにくくなるので、「じゃあ、壊して建て替えるか」となるわけだ。
築30年のマンションを購入しリノベーション費用を上乗せする物件に、35年ローンを付けることを金融機関は嫌がる。今はだいぶ柔軟になってきているが、中古に対する価値や思想が、金融機関に認めてもらえるかどうかが重要だ。ユーザーたちが中古物件やリノベーションの世界を必要で有用だと考え、バリューアップが広まっていくことで金融機関が動き出すのだろう。金融機関が変われば、お金の流れが変わり、住宅がもっと買いやすくなるからだ。首都圏では、2000~07年ごろまでに年間7~9万戸の大量供給されていた新築マンションが中古として市場に出始めており、このようなマンションを購入してリノベーションするユーザーは増えてきている。
(つづく)
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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