2024年05月20日( 月 )

弱みを生かした福岡の都市づくり再考「遅い開発」と中古市場の親和性(4)

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脱新築なるか

 「今こそ、中古住宅の価値が見直されるべきではないか」と、「リノベる。」創業者の山下智弘氏はいう。海外の多くの国では中古住宅を活用することで、購入後も資産価値は大きく下落せず、有益な資産として活用されている。それにより、住宅購入の重圧から少しでも解放され、人生が少し楽に、楽しくなるのではないか。日本でも自宅をリノベーションして価値を転換し、売却する投資方法も出てきている。

 単なるリフォームでかたちや表装を整えるだけではなく、現代のライフスタイルに合った機能とスペックとデザインで人気物件へと押し上げ、購入を希望するユーザーへ譲り渡す。そんなストック市場の活性化も、成長していくだろう。GDPだけを追い求める政策ではなく、同時にQOLも視野に入れて、マインドチェンジをする。経済政策と一緒に、生活の質を高める都市経営の発想も並走したい。山下氏の言葉を借りるならば、「日本の暮らしを、かしこく素敵に。」――そんな世界がやって来ることを願う。

脱新築:たかが住宅、大切なものは他にもあるでしょう。
脱新築:たかが住宅、大切なものは他にもあるでしょう。

都市の未来を考える

 最後に、少し都市経営にまつわる空間実例を紹介してみたい。リノベーションは単体の建築を再生することだが、それがあるエリアで同時多発的に起こることがある。アクティブな点は相互に共鳴し、面展開を始める。それがいつしか増幅し、エリア全体の空気を変えていく。建築家・馬場正尊氏を中心とした取り組み「エリアリノベーション」は、まちづくりの次の概念として注目されている。

ニューヨーク・MPD
ニューヨーク・MPD

    たとえばNYのマンハッタンのウェストリバー沿い、今では旅行客が目的にしてやってくる人気地区になったが、2000年代前半の風景は、今とはまるで違っていた。MPD(ミート・パッキング・ディストリクト)は“精肉地区”の意味で、この辺りはもともと精肉工場が集まっていたエリア。20年前は、まだ通りには肉の匂いがしていて、お洒落な香りとはほど遠かった場所だ。それが倉庫や工場跡がリノベーションされ、ブティックやホテル、レストランやカフェなど林立し、街のブランドイメージを激変させている。

 これまでの社会構造、都市構造をかたちづくってきた手法は、まず机上で線が引かれ、建築家、都市計画家、コンサルタントなどが計画を立てる。次に、ゼネコンや工務店がその計画に沿って実物をつくる。そして使い手にわたされる。マスタープラン型の都市計画であり、いわゆる“まちづくりだ”。「計画する人」→「つくる人」→「使う人」という順番で物事が動く。これが近代の空間のつくられ方であり、ヒエラルキーでもあった。

 それが今、逆の流れで動き出しているのだ。使う人が使い方や使う場所を探し出す。現実の実践的な使われ方、もしくは理想の暮らし方の発想から物事が始まる…。“まちづくり”という使い古された考え方を超える新たな言葉を携え、新しい開発の方法論が動き出しているのだ。


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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