政治経済学者 植草一秀
敗戦から80年が経過して日本は重大な岐路に立っている。再び戦争に突き進むのか。平和主義を堅持して近隣友好関係を構築するのか。
中国の台頭は著しい。すでに購買力平価ベースで中国は世界第一位の経済大国に転じている。豪州の戦略政策研究所の報告によれば64の世界最先端技術分野の57分野で中国がトップに立っている。
これまで世界ナンバー1の地位に立ってきた米国の焦燥感は強い。台頭する国家がナンバー1国家を凌駕しようとするとき緊張が走る。「トゥキュディデスの罠」と呼ばれる。
中国の台頭を抑止するために中国を疲弊させる工作が検討される。ウクライナでの戦争はロシアを弱体化させるための策略だった。米国が主導して工作した。戦争の創作はロシアを疲弊させるとともに米国の軍事産業に巨大利益をもたらす。同じ文脈で東アジアでの戦争創作が検討されている。
岸田・高市は米国が主導する戦争創作の流れに完全に乗っている。岸田内閣が3年も持続した最大の背景は日本の軍事費を倍増させることを主導したことにある。
この点で石破茂首相は歓迎されざる首相だった。石破を退けて高市新体制を構築することに最大の貢献をしたのが日本のメディア。「政治とカネ」問題を放り出した高市新体制はメディア総攻撃の対象であるべきだったがメディアは一切の攻撃を排除した。宗主国米国の指令に従い、高市絶賛世論の創出に総力を挙げた。そして、高市自己都合解散による総選挙で高市自民が圧勝。
選挙結果の特徴は二つ。第一は25年参院選での最大特徴だった「ゆ党への投票拡大」が「自民への回帰」に転じたこと。よ党とゆ党の得票率合計は25年参院選と26年衆院選で大差がない。内訳が激変した。ゆ党への投票の多くが自民に転じた。小選挙区制の特性もあり、小選挙区で自民が圧勝した。
第二は対米自立・共生の経済政策・平和主義。原発廃止を訴える革新勢力である共産・れいわ・社民が衰退したこと。この傾向は24年衆院選から続くものだが、今回衆院選で一段と顕著になった。
「革新勢力」はいまや絶滅危惧種になりつつある。その最大の理由は革新三勢力がバラバラであること。弱小革新勢力が「おれがおれが」で進めば一段とジリ貧になる。連帯しない限り絶滅を免れない。同時に重要なことは革新勢力が若年層の支持を取り付けること。若年層の支持を取り付けることが近年政治勢力の伸長を決定付けている。
高齢世代にのみ依拠する支持構造は絶滅を早めるだけだ。「団塊の世代」はすでに最多人口年齢層でなくなっている。若者の支持を得る変革を革新勢力が演じられなければ、日本から革新勢力は消滅する。
高市首相が最重要視することになるのが参院での3分の2勢力確保。憲法改正発議には衆参両院での3分の2以上の賛成が必要。衆院で改憲勢力は3分の2を確保したが、参院ではまだ確保していない。維新に加えて、国民、参政、保守、みらいを3分の2勢力に組み込むことに総力が注がれる。
憲法改定は9条と緊急事態条項がカギだ。緊急事態条項は「全権委任」の性質を帯びる。ナチス党が全権委任法を制定してドイツが暴走した。「ナチスの手口に学ぶ」が高市自民の合言葉。日本が地獄絵図に突き進むのかどうか。日本は重大な岐路に立っている。
若い人々は悪夢など想定しない。しかし、日本が突き進もうとしている道は悪夢そのもの。日本の憲法を改変して自衛隊を正規軍に変質させ、米軍の指揮下に組み込む。対中国戦争を日本と台湾とフィリピンにやらせる。戦場になるのは東アジア。米国が傷つくことはない。戦争を拡大して長期化させる。これに比例して米国軍事産業の利益が膨張する。ウクライナ戦争とまったく同じ図式で戦争が創作される。
そのための第一プロセスは憲法破壊。改憲=壊憲である。9条を改定して国防軍を明記する。緊急事態条項を定めて政府が緊急事態を宣言すれば政府が全権を掌握する。ドイツの全権委任法と同種の法規定が設定される。緊急事態宣言下で基本的人権が制限される。日本国憲法の自己否定である。
日本の軍事費はGDP比1%以内に抑制されてきた。それでも巨額の防衛費である。岸田首相は5年で27兆円の防衛費を一気に5年で43兆円に増額。日本の防衛費はGDP比1%から2%へ、さらに3%、3.5%へと急膨張する方向にある。日本の防衛費増額は米国軍事産業への上納金。日本の平和と安全のためにはまったく寄与しない。
そもそも、日中間の緊張関係は日本が自作自演で創作したもの。1972年の日中国交正常化、78年の平和友好条約締結の際に尖閣諸島の領有権が問題になった。日中両国が領有権を主張し、決着をつけられず、将来に問題の解決を先送りした。これがいわゆる「棚上げ合意」である。
「棚上げ合意」に基づいて日中漁業協定が締結された。尖閣諸島の施政権は沖縄返還に際して日本に移行した。だが、領有権は未確定である。米国は尖閣施政権を日本に移行させたが、尖閣領有権については日本にも中国にも台湾にも加担しないことを明言した。
尖閣諸島は領有権係争地である。しかし、尖閣諸島を管理する権限=施政権は日本が有する。しかし、領有権問題は未解決であることから、尖閣海域の中国漁船については、海域外に誘導することとし、問題があれば外交ルートを通じて調整することとされた。
ところが、2010年6月8日、菅直人内閣発足の日に、菅直人内閣が閣議決定した。尖閣諸島をめぐる領有権問題は存在しないとした。尖閣諸島の領有権は日本にあるとし、尖閣海域の中国漁船への対応を日中漁業協定基準から国内法基準に変更。この対応変更によって中国漁船衝突事件を日本が創作した。これを契機に「中国の脅威」が叫ばれ始め、野田内閣が尖閣諸島の国有化を断行して日中関係は決定的に悪化した。
背後にあるのは米国の命令だ。米国は東アジアの緊張を人為的に創作している。緊張関係を創作して、機会があれば戦争を創作しようとしている。実際に戦争が創作される際に犠牲になるのは戦場の国と国民だ。ウクライナ戦争は米国が創作したものだが犠牲になっているのはウクライナの国土とウクライナの市民である。
高市内閣の暴走を許せば、日本はアジアのウクライナになる。犠牲になるのは日本国民だ。若い人々に真実のストーリーを伝え、翻意を促さないと日本は確実に地獄に突入することになるだろう。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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