トランプ大統領は世界を奈落の底に落とし込むのか?(後)

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏

 トランプ氏に近い人物たちは、トランプ氏は「深刻な精神疾患を患っている」「もはや現実とのつながりを失っている」と語っています。さらに、「彼は癇癪を起こしやすく、怒りに任せて行動し、時には完全に狂気じみている」とのこと。もしこれが真実ならば、これらは米国の大統領として非常に危険な性格に違いありません。

統治を揺るがす
精神的不安定リスク

 現在、トランプ氏が率いているホワイトハウスは、しばしば混乱に陥り、時には完全な制御不能に陥っていると指摘されています。また、このアメリカ大統領は精神的に不安定で、ほとんどあらゆる行動において、まるで暴走する大砲のようだともいわれているではありませんか。トランプ氏はしばしばハッタリと復讐心に燃え、あらゆる動機で次々と側近を解雇してきています。去る1月29日、トランプ氏は「オバマ元大統領は2016年の選挙の際に俺にクーデターを仕掛けた。即刻、彼を逮捕し投獄する必要がある」と発信。

 また、トランプ氏は「笑われたくない」という子どもじみた理由で、いわゆる「関税戦争」を仕掛けたとも報じられました。これには日本を含め、国際社会が不安を掻き立てられています。なぜなら、こうした言動の多くは常軌を逸した発想や事実誤認に基づいているからです。このままでは国際秩序や世界経済に甚大な損害を与えかねません。トランプ氏の首席経済顧問であるゲーリー・コーン氏は、こうした狂気にうんざりして辞任。トランプ氏は周囲に「追従者」しか求めていないことが明らかになった瞬間です。

外交リスクの源泉は
誇大妄想と非共感性

 トランプ氏には、個人的な強い信念が見当たりません。自己中心的で、常にあらゆる出来事から個人的な利益を得ようと目論んでいます。誰かが彼に喜び、名声、あるいは金銭を与えてくれるなら、彼は何でもそれを全面的に支持してきました。歴代の米国大統領は、Twitterのようなソーシャルメディアで、自分の感情や他者への侮辱、さらには政策さえも公然と表明することはありませんでした。

 トランプ氏は自己顕示欲が強く、まるで重度の誇大妄想に陥っているかのようです。しかも、ためらうことなく自らを「天才」と呼ぶのですから。また、「神から米国を再び偉大にする使命を与えられた」とまでアピールしています。

 彼は自分以外の誰に対しても無神経なほど共感性を抱きません。その言動は米国以外にも向けられます。たとえば、昨日までは「ラブレターを交換してきた」と持ち上げていた北朝鮮の金正恩総書記に対して、今日になると、「嵐の前の静けさだ」と前置きしたうえで、「北朝鮮は、この世界がかつて見たこともないような炎、怒り、そして我々の力に直面するだろう」と述べ、2,500万人以上の人口を抱える北朝鮮を「完全に破壊する」とまで脅迫しているからです。しかも、こうした発言を国連の場で行っているのですから。

世界の不安定化を招く
非自由主義的介入主義

 そうであれば、今後、トランプ大統領の弾劾を求める論拠はますます強まるでしょう。彼の罷免は時間の問題かもしれません。もし民主党が今秋の中間選挙で下院の過半数を奪還すれば、大統領としての彼の弾劾に向けた措置が速やかに講じられるはずです。そして、それまでに十分な数の共和党議員が弾劾の必要性に思い至れば、さらに早まる可能性もあります。

 モンロー主義の現代版と見なされている「トランプのドンロー主義」は、現時点では西半球を優先しています。カリブ海における麻薬密売船への軍事攻撃から、南北アメリカ大陸における西半球以外の勢力による軍事力配置や戦略的資産の支配を否定することまで、その戦略は多岐にわたるものです。

 これは典型的な大国の行動でしょう。つまり、世界規模で権力を投射する前に、まず自国の周辺地域を確保するというわけです。これは、ロシアが近隣諸国をどう見ているか、あるいは中国が東アジアにおける地域的優位性をどう考えているかを彷彿とさせます。

 しかしながら、トランプ大統領のアプローチは、真の抑制というよりは、しばしば「非自由主義的介入主義」とでも呼べるものを体現しているのが特徴です。自由主義的な国家建設と民主主義の推進を拒否する一方で、ナイジェリアにおけるISISへの攻撃、ベネズエラの軍事、エネルギー施設への攻撃、そして最も劇的なのはマドゥロ大統領の拘束など、数多くの軍事作戦を展開してきています。

 グリーンランド併合とパナマ運河返還要求、そして「カナダを51番目の州にする」という主張は、勢力圏の確保にとどまらず、あからさまな拡大へと至る領土的野心を象徴しています。こうした行動は、同盟国との関係悪化、新たな安全保障上のジレンマの創出といったリスクを孕んでいることは否定できません。こうした一方的な言動は、賢明なリアリストであれば避けようとするはずです。

 大統領個人への意思決定の集中、「熱狂的な外交」、そして「大統領の気まぐれで変更される」力の行使は、予測不可能な状況をもたらし、大国関係における安定性を損なうものです。結果的に、トランプ政権が続けば、国際秩序そのものが不安定化し、世界は奈落の底に突き落とされることになります。

 米国民もようやく気づき始めているようですが、国際社会がトランプ氏の危険性に目を向け、軌道修正を図る必要があるでしょう。高市首相はトランプ氏が4月に訪中する前に、ワシントンに乗り込み、トランプ大統領との首脳会談を模索しているようですが、前代未聞のジコチュー的交渉相手の本性をどこまでわかっているのか大いに疑問です。

(了)


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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