責任感から共感へ、日本が誇る「配慮主義」(4)
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(2)サステナブルで職住環境を推し量る「コミュニティ産業」(つづき)
職住融合へ
オフィスの起源は、大きな邸宅にしつらえた執務室だとされている。そこからオフィスは拡大して、人を集めて効率良く働かせることを目的に高層化し、床面積を積層させる空間となった。社員の「働き方」の見直しが始まると、企業は社員の“ワーク・ライフ・バランス”を重視したオフィス形態を求めるようになり、社員の固定席をつくらずに自由な席で仕事を行う「フリーアドレス」や、場所だけでなく時間も制約されずに働けることを目的にした「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」などを発明していく。このようにオフィスの在り方は、時代とともに変化してきた。
それでは、コロナ禍によって今後のオフィスや働き方はどのような形態に進化するだろうか。従来は「オフィスは働く空間」で「住宅は衣食住の空間」と、明確に線引きすることができた。そのため住宅立地は「都市部」や「駅近」が重要視され、間取りは「リラックスできる場」としてプライベート性の高い空間が求められた。
しかし、テレワークが可能だということがわかると、地価や賃料の高い都市部に住むことのメリットは相対的に小さくなる。加えて、これまで完全にプライベートだった住宅にも、事務所的な機能が求められ始めている。広いリビングやダイニングに可動式の間仕切りを増設したり、電源位置など設備面を見直したりなど、テレワークへの対応が一層求められるようになる。これまでは贅沢品とされていた書斎も、“必要なもの”と捉え方が変わる。
近年では共用部をワークスペース化したマンションや、シェアオフィス付きの賃貸住宅なども登場している。街のなかにはサテライトオフィスやコワーキングスペースなど、働く場所が多種多拠点になって進んでいる。仕事を含む暮らしのあらゆる場面でオンラインの比重が高まり、「都心」が優先すべき住まい選びの基準ではなくなりつつある。ゆとりのある家や自然を求めて郊外へ視野を広げている人、生活拠点を郊外に移して理想的な「ワーク・ライフ・バランス」を叶えた家族。身近にある海や森でのアクティビティ、オンオフのある暮らし―仕事と暮らしが混ざり合う「職住融合」の世界。
オフィスと住宅を再発明せよ
テレワークは、日本の都市空間に「再発明」を要請している。LDKに執務スペース=Working Spaceを加えた「WLDK」とでもいえる住空間の在り方。労働空間は集まって働く意味を問いかけ、都心のオフィスは不要になるのではなく、街のなかや郊外住宅に埋め込まれていく。逆都市化の流れにあるアフターコロナの世界では、オフィスと住宅が再発明され、サステナブルに配慮した「職住融合」の新しい暮らし方がスタンダードに向かうはずだ。
【コミュニティ空間の提案例】
Zマンション
『集まって住む。だからここにする。』都市型3世代居住とZ世代向けの“集合の棲み家”を提案したマンション。避密のレストラン
働く場が街に埋め込まれれば、飲食の場もそれに連動して動き出す。飲食店の厨房を車両へ積み、移動させることでシェアスペースを渡り歩くインフラサービス。「どこにでも呼べる。おいしい空間」をコンセプトにした新しい食空間体験。■リノベーション
一等地の雑居ビルをコンバージョンし「住+働」場へ転換する取り組み。機能転用の創造。森の商業施設「FONEST」
都心に森を開発する。働く場も消費の場も、自然体験のなかにおり交ぜていくバイオフィリアデザインの提案。人間の身体感覚を取り戻す思想。(3)自然や環境に地球規模で配慮する「建設技術」
“木造”という建築技術
法隆寺は607年に、推古天皇と聖徳太子が奈良・斑鳩(いかるが)の里に開いた寺だ。その五重塔は建立から1300年以上を経て、今もなお建ち続ける世界最古の木造建築。古くに建てられた神社仏閣には、クギや接着材を一切使わずに、木材のみを組み合わせて建てられた建築物が存在するが、これは木造建築において古来より受け継がれてきた職人の技が光る伝統技術。この日本の技術は海外の人からすると、もはや芸術の域だといわれる。
木造への関心は、2000年頃から世界中で高まってきた。地球温暖化がきっかけで、その対策として木に注目が集まったのだ。木を使えば使うほど大気中の二酸化炭素を減らすことになり、地球温暖化が防げるといったことを世界中の学者が言い始めて、ヨーロッパやアメリカなどの環境先進国で急速に木が使われるようになったのだ。
かつて日本は木造先進国だったが、“木造化”の流れのなかでは今は欧州より遅れている。本来日本人は木が好きで、木とともに暮らしてきたし最も活用してきた民族だ。日本でもようやく広く木への関心が高まってきて、その大きな流れがもう一度日本でも起き始めている。
日本の工務店は世界一
日本の工務店は、木を上手に使う。地元の木材を使って建築を建て、それを長く大事に使っていくことが、地球温暖化の解決にとって有効であるということが浸透してきた現在、彼らは自由な間取りで、しかもリーズナブルにつくる世界一の木造技術をもっている。板金技術についてもすばらしい。日本は雨が多く、台風の時などは下から雨風が吹き込むこともあるが、このような日本にしかない悪条件でも雨漏りしないようにと技術を何百年も磨いてきた。こちらもそこまで高くない値段で雨漏りをしない屋根をつくる。この技術も世界に通用する技の1つだろう。
『最高の木は裏山の木だ』と日本の大工は言い習わしてきた。裏山の光のあたり方や温度、湿度はその敷地と同じであり、建築ができた後も反りや曲がりの狂いが少ないからだ。昔から里山と暮らしを共にしてきた、日本人の身体の記憶に組み込まれている知恵の1つだろう。安いからといって遠くから木を運んでしまえば、輸送の際に大量の二酸化炭素を放出してしまう。地域の木材を使うことは、環境に配慮するというサステナブルなビジネスのフレームワークになるのだ。
(つづく)
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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