2024年05月19日( 日 )

責任感から共感へ、日本が誇る「配慮主義」(5)

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(3)自然や環境に地球規模で配慮する「建設技術」(つづき)

世界に誇る土木・耐震技術

 東日本大震災では、M9.0という地震の揺れに耐えた高層ビルに海外から感嘆の声が挙がっていた。免震構造や耐震構造の建物をつくるには、しっかりとした土木技術が必要になる。また、実際に地震災害が起こったとしても、建物や道路の被害が少なければ復旧スピードも早い。震災であれだけの揺れを受けつつも建設中の東京スカイツリーが倒壊しなかったことや、線路や道路の復旧が早かったことは世界でも驚嘆された。

 日本の国土は4つの大陸プレートがひしめき合う火山列島で、大昔から地震災害に遭ってきたからこそ、地震災害に対する備えは他国に比べても高いレベルにある。学校や会社で行われる避難訓練を海外の人が見ると感心される扱いだ。

 そんななか、日本の信頼できる建設技術でインフラを整備したいという国はアジア各国にとくに多い。インドネシアで初の地下鉄は日本が全面支援した。アジア諸国で建設されている古いダム、シンガポールの地下鉄(五洋建設)やクアラルンプール空港(大成建設)、香港のストーンカッターズ橋(日本企業JV)など、今でも現役で利用されているインフラ構造物は多い。メイドインジャパンは、何も電化製品や車だけではなく、土木・建築技術においても世界に誇れる高品質で信頼のおける輸出産業のはずだ。

海外売上比率の変 国交省資料
海外売上比率の変 国交省資料

土建国家・日本の新基準

 日本の建設業界の市場規模がピークだったのは1995年。それが20年後の15年にはピーク時の6割近くという状態になっている。日本は18年をピークに海外受注が減少している。コロナ禍の影響も大きいが、日本人技術者の人手不足や高い賃金が足を引っ張っていることも事実。今後、高品質で高付加価値のついた世界最高水準の建築技術を提供することは、日本国内の業界の活性化と持続性にもつながるはずだ。

 20世紀の工業化社会はスクラップ&ビルドの時代だった。ものをつくっては壊し、また新たにつくる。つまり、あらかじめ壊すことが前提にあった。しかし、そのようなスタイルは「サステナブル主義」と逆行する。人々はむしろ、古いものや時間を経たものに愛着を抱き、そうしたものを身近に置きたいと思い始めている。

 木造の耐震性・耐久性も技術が進み、今では木造の高層化も可能になった。日本の木造の世界観を輸出産業の強みに取り込み、建設技術と一緒に世界に売り込めないだろうか。日本人の気質にあるきめの細やかな仕上げをする左官技術や内装職人も、世界に誇れる技術をもっている。かつて土建国家と称された日本の建設産業の新たな進化を、「サステナビリティ・ファースト」を機に見てみたいと思うのだ。

【木造・建設技術の事例】
スターバックスコーヒー太宰府天満宮表参道店
 釘を一切使っていない木組みは筋交いとして、建物を支える。内部空間を覆い尽くすX形のフレームは、間口が狭く奥行きの深い敷地を考慮して、木をななめに組むことで光と風が流れるような有機的な空間となっている。2,000本の檜材の総延長は4kmにもおよぶ。(2011年竣工/隈研吾建築都市設計事務所)

スターバックスコーヒー太宰府天満宮表参道店

高層純木造耐火建築物「Port Plus」
 純木造耐火建築物として国内最高となる高さ44m(22年竣工/(株)大林組)の研修施設。すべての地上構造部材(柱・梁・床・壁)のべ1,990m3の木材を使用しており、これにより約1,652tのCO2を長期間、安定的に固定することができる。さらに、材料製作から建設、解体・廃棄までのライフサイクル全体では、鉄骨造と比べて、約1,700t(約40%)のCO2削減効果がある。

高層純木造耐火建築物「Port Plus」

東京スカイツリー
 『ゲイン塔のリフトアップで高さが601mとなり、中国広東省の広州タワー(600m)を超え、自立式電波塔として世界一の高さになりました。2008年7月の着工から2年7カ月余り。さまざまな知恵と技術で前人未到の工事に挑み、建設の歴史に大きな一歩を刻んだといえます。高さ634m、そして竣工に向けて、工事はいよいよ佳境を迎えます。関わる人すべての誇りを胸に、今後も安全に作業を進めていきます。』_“600m突破。歴史に大きな一歩を刻む”_大林組現場ブログより/2011年3月1日付

東京スカイツリー

(4)その他注目している産業界

■“創造”を魅せる「クリエイター産業」

 漫画文化、ゲーム文化等、コンテンツを生み出す能力は世界に誇れる日本の強みだが、知財のストックは多くてもそれらのコンテンツをマネタイズする仕組みが整っていない。たとえばドラえもん、ドラゴンボール、ワンピース等のコンテンツビジネスを体験価値に変え、日本発信のテーマパーク化する構想等は未開発の領域。

■四季の恵みを生かす「食/和食」

 無形文化遺産に登録された和食文化の特長は4つ。 

1.多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
2.栄養バランスに優れ健康的でヘルシー
3.自然の美しさや季節の移ろいを表現
4.正月や節分、端午の節句など年中行事と食文化

 加えて、主観になるが「5.とにかく美味い」。

■おもてなしの「観光/エンターテイメント」

 歴史・文化、品質、ホスピタリティは日本に脈々と流れる思慮深い伝統作法。

「配慮」とは何か

 【配慮】:心を配ること。心遣い。事情を踏まえて、気遣いのこもった取り計らいをすることを意味する。

 「配慮」は、相手に迷惑をかけないように、他人の立場に立って、気持ちをちゃんと理解するという表現である。「配慮」は人間関係のなかで大きな役割があって、良好な人間関係を保ち、調和の社会をつくる欠かせない表現である。人間関係の協調性を築くことをとても重視する日本人は、子どものころから「ほかの人に迷惑をかけないように」と言われて育っていく。

 海外ではそういう考え方が少ない。その点から見ると、日本の大切な「配慮」という考え方は、世界が学ぶに値するのではないかと私は思う。逆にいえば、日本は他者との接点や共存をうまくつくっていく感性の高い部族といえる。共感や考慮、モラル、サステナブルという共鳴に最も相性が良い素養を、すでに広い範囲で持ち合わせていると言ってもいいのではないだろうか。

(了)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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