2024年05月21日( 火 )

【熊本】復興特需からTSMC狂想曲へ(後)

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重点10項目は概ね順調、益城でも区画整理が進行

 熊本といえば忘れてはならないのは、16年4月に発生した「熊本地震」だ。前震と本震の2度にわたる巨大地震は最大震度7を観測し、熊本県ならびに大分県、長崎県などの広範囲に甚大な被害をもたらした。あれから早7年──。震災からの復旧・復興の進捗状況はどうだろうか。

 熊本県では震災翌17年3月、熊本地震からの復旧・復興を1日も早く確実に進めていくため、復旧・復興プランの「ロードマップ」(28項目)のなかから10項目を選定。重点的に進捗の把握を行うことで、復旧・復興全体の進捗を加速化していくことを公表した。

創造的復興に向けた重点10項目
⑴「すまい」の再建
⑵災害廃棄物の処理
⑶阿蘇へのアクセスルートの回復
⑷熊本城の復旧
⑸益城町の復興まちづくり
⑹被災企業の事業再建
⑺被災農家の営農再会
⑻大空港構想NextStageの実行
⑼八代港のクルーズ拠点整備
⑽国際スポーツ大会の成功

 これら重点10項目のうち、23年4月までに4項目(⑵、⑺、⑼、⑽)が完了。残る項目についても、⑴「すまい」の再建→27年度完了予定、⑶阿蘇へのアクセスルートの回復→道路はすべて完了、南阿蘇鉄道が23年7月に全線運行再開予定、⑷熊本城の復旧→天守閣は復旧完了、全体の完全復旧は52年度予定、など、概ね順調に進行している。

 この重点10項目のなかでも、とくに進捗状況が気になるのは、⑤益城町の復興まちづくりについてだ。

 益城町は、震源地から最も近いという位置関係もあって、熊本地震の際には市街地において多くの家屋が全半壊になるなど、震災の被害がとくに甚大だったエリアだ。全壊3,026棟、大規模半壊・半壊3,233棟、一部損壊4,325棟の計1万584棟と、町全体の約98%に住家被害が生じ、家屋倒壊等の影響で幹線道路・生活道路の交通機能が喪失し、緊急・応急活動にも支障が生じるなど、防災面での課題も浮き彫りになった。

 町役場庁舎も深刻な被害を受けて機能せず、離れた場所にプレハブの仮設庁舎が設置されたほか、仮庁舎のすぐ近くの「木山仮設団地」(整備戸数220戸)はじめ町内18カ所に「プレハブ仮設住宅」1,562戸が設置され、また、民間アパートなどを借り上げる「みなし仮設住宅」1,453戸と併せて、ピーク時には2,968戸、7,737人が仮設住宅での生活を余儀なくされた。

益城土地区画整理事業地図
益城土地区画整理事業地図

 その益城町では、熊本地震からの創造的復興のシンボルとなるまちづくりを支援する取り組みとして、前述の重点10項目にも位置付けられている、県による「県道熊本高森線4車線化事業」と「益城中央被災市街地復興土地区画整理事業」の2大事業が進行している。県道熊本高森線4車線化事業は、県道熊本高森線を10mから27mに拡幅して4車線化することで、都市連携軸としてふさわしい交通機能や空間機能の整備により「交通の円滑化」「防災機能の向上」「安全な歩行空間の確保」を図るものである。

 事業費は約195億円で、現在は事業用地の96.3%の契約が完了しているほか、工事は車道部43.4%着手(うち供用開始は25.3%)、歩道部65.1%着手(うち供用開始50.3%)という状況。今年3月28日には、4車線化した車道部の一部区間(約0.8km)が供用開始となった。今後は残る区間の用地取得や拡幅工事を順次進めていく方針で、25年度までに事業区間約3.2kmの4車線化完了を目指している。

一部区間が4車線化した県道熊本高森線
一部区間が4車線化した県道熊本高森線

    一方の益城中央被災市街地復興土地区画整理事業は、甚大な被害を受けた益城町の中心市街地を、「益城町復興計画」の土地利用構想に基づき、道路や公園などを含めた公共施設の整備改善と宅地の利用増進を図ることを目的としたもの。同地区を熊本都市圏東部地域における都市拠点として、行政・商業・サービス・交通結節点などの高次の都市機能を誘導するとともに、安心して快適に暮らせる災害に強いまちづくりの実現を目指している。

 同土地区画整理事業の施行面積は約28.3haで、事業費は約140億円。現在、全467画地のうち、仮換地は376画地(80.5%)を指定済で、工事は238画地(51.0%)が着手。うち引き渡し済みが146画地(31.3%)となっている。同土地区画整理事業の進行とともに、22年4月には「地域交流及び住民活動の場」「震災記憶の継承の場」「災害に備える場」となる復興まちづくりセンター「にじいろ」が供用開始となったほか、今年3月28日には益城町役場の新庁舎が落成。27年度までの事業完了に向けて、今後も造成工事や宅地引き渡しが順次進んでいく予定となっている。震災で甚大な被害を受けた益城町は現在、新たな町へと生まれ変わる蛹化の真っ最中だといえるだろう。

益城町の新庁舎
益城町の新庁舎

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 7年前の震災で甚大な被害を受けた熊本都市圏だが、現在は震災からの復旧・復興のフェーズから、TSMC進出を起爆剤とした別次元の新たな都市開発・発展のフェーズへと移行しつつある様子がうかがえた。そしてその今後の発展を下支えするのは、交通ネットワークをはじめとした都市インフラの整備・充実だ。地理的にも九州の中心部に位置する熊本都市圏。今後、さまざまな歯車がうまく噛み合っていくことで、九州の新たな核となるだけのポテンシャルは秘めているといえよう。

(了)

【坂田 憲治】

(中)

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