2024年05月17日( 金 )

佐賀県有田町、自治体初のESG経営へ 九大、前田建設工業、アクロテリオンと連携

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 18日、佐賀県有田町(松尾佳昭町長)と3事業者は、「ESG分析を活用した有田町新国富指標の向上に関する包括連携協定」を締結した。

 今回、有田町と締結した事象者(締結式出席者)は、九州大学都市研究センター(馬奈木俊介・センター長)、インフロニア・ホールディングス(株)(尾付野誠・前田建設工業(株)九州支店長)、(株)アクロテリオン(下川弘・代表取締役)。

 有田町は3事業者と連携してESGの経営実践を導入し、有田焼のブランド価値向上と、ESG基盤を整えた自治体としての有田町ブランドの確立により、ESG経営を志向する企業の誘致などにつなげたい考えだ。

左から、尾付野誠・前田建設工業九州支店長、松尾佳昭・有田町長、馬奈木俊介・九州大学都市研究センター長、下川弘・アクロテリオン代表
左から、尾付野誠・前田建設工業九州支店長、松尾佳昭・有田町長、馬奈木俊介・九州大学都市研究センター長、下川弘・アクロテリオン代表

国内初の地方自治体におけるESG経営の実践

 ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(統治)を意味し、それらを考慮した投資活動や企業経営のことだ。CO2排出量や人権配慮といったさまざまな指標を数値化し、それらを企業の評価データとして活用することまで含める。SDGsと近い概念のようだが、ESGはSDGs達成のために、主に経営活動における重要な観点と評価対象までを標ぼうしたものといえる。

 有田町には、世界的に有名な有田焼がある。しかし、有田焼は焼き物であるがゆえに、製品の焼成に大量の燃料を使いCO2を排出する。環境に配慮した製品が求められるこれからの時代において、このような焼き物の特徴がネガティブに受け取られ、ブランド価値の低下に結びつく恐れがある。

 そこで、有田町は焼き物産業を抱える町全体でESGを実践し、CO2の排出量と農業や林業等によるCO2の吸収量を数値化することで、焼き物産業が町を支えることで他の面でCO2の吸収につながっていることや、労働環境や労働者の人権状況といった指標も数値化することで、全体的にSDGsの価値観に適う伝統産業であることを有田焼の新しい付加価値としてアピールし、これからの時代の価値観に沿うかたちで有田焼ブランドの価値向上を目指す狙いだ

 しかし、これは有田焼のためだけのプロジェクトではない。有田町で実践するESGは、最終的に有田町内の企業も積極的に利用できるESG環境として提供していく予定だ。つまり、有田町はESG基盤を確立した自治体となることによって、ESG経営を志向する企業の誘致を期待することができる。ESG実践自治体としての有田町のブランド化が狙いである。

 本プロジェクトの第1歩としては、2024年3月までに、町内のCO2排出量と吸収量を数値化し、それを土台に、今後の具体的な取り組みの方向性を有田町内外に示す考えだ。

各事業者の役割と出席者のコメント

 連携事業者それぞれの役割は次のとおり。九州大学都市研究センターが各指標データの分析と評価を行う。評価に際しては九州大学のスタートアップ企業が独自開発した「aiESG (アイエスジー)」を利用する。インフロニア・ホールディングスは有田町内のインフラ整備に携わる。アクロテリオンは、まちづくりのコンサルタントとして当該プロジェクトの事務局を担う。

 松尾・有田町長「有田焼は世界的に有名なブランドです。しかし、SDGsという時代の要請のなかで、世界に誇る私たちの産業も新しい価値観に応えたブランドを確立していかなくてはなりません。そのために、今回、このような連携によってESG経営を導入することになりました。取り組みに際しては、各指標の数値化が必要ですが、町全体で数値を出すことで町内の中小事業者には負担が生じないようにし、試みを軌道に乗せていきます」。

 馬奈木・九州大学都市研究センター長「国際的に標準化された指標を使って、ESGを実践していきます。海外ではすでに実践がなされており、アメリカや中国の一部企業では、公開する財務諸表のなかにESGの評価データを盛り込む試みもなされつつあります。有田町の場合も、最終的には評価データを一般公開できるところまで到達することが目標です」。

 尾付野・前田建設工業九州支店長「インフロニア・ホールディングスは、前田建設工業、前田道路、前田製作所を傘下にもち、インフラの企画提案から建設、運営・維持管理までをトータルで提供します。本プロジェクトにおいて当社は、総合インフラサービス企業として、インフラを通した社会問題の解決に取り組み、有田町のESG経営実践に貢献してまいります」。

 下川・アクロテリオン代表「有田町は今回の試みに最適です。町の規模も大きすぎず、農業などの環境に恵まれていること、そして町内企業の多くが携わる有田焼という世界的に有名な伝統産業があります。自治体レベルでのESGの試みを、まずは有田焼のブランド価値向上に焦点を合わせて取り組みを進め、そこから有田町全体のブランド化につなげることができます」。

【寺村 朋輝】

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