2024年05月08日( 水 )

コスモス薬品・トライアルという九州発ユニーク小売業の東進戦略(後)

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日本一ユニークな小売業トライアル

トライアル    もう1つの九州発の小売業にDS業態のトライアルがある。この企業も極めてユニークな経営をしている。通常のチェーンストアはエリアや業態を限定して店舗展開をするのが普通だが、トライアルは全国各地に規模、業態の異なった店を半ばバラバラに出店している。一見、無計画にも見えるトライアルだが、祖業は「あさひや」というコンピューターやソフトウェア、家電量販店だ。その後、1992年に大野城市南が丘にディスカウントトライアル1号店を開店後、旧寿屋やオサダといった店舗跡に出店し、韓国や関西、北海道などに進出した。そんなトライアルもまさにエフェクチューションを地で行く企業だ。名前通りのトライアルで小売の常識の外を行く。

 小売の基本は「モノを売る」だが、トライアルは「つくる」という製造業的一面をもつ。しかし、中国にIT関連企業をもつなどソフトウェアがその中心だから、通常でいわれる製造業ではない。

 小売がコンピューターを使った商品分析を始めたのは90年前後だが、それは外部システム依存によるものだった。DXが一般化した今も、レジ機能を中心としたソフトの開発を自前化している企業は少ない。

 トライアルの特徴はそれを自社で開発し、東芝テックなどのPOSシステムやカート型セルフレジの専業メーカーと協業しながら、開発したシステムを専業メーカーと共同で他社に普及させようというユニークな発想に立つことだ。できることを、できる条件下での最善を考える。出店地域や業態も同じ発想下で実行されたということだろう。家電関連から、総合小売に転じた同社が、それを捨ててソフトウェア会社に転じても少しもおかしくない。

 企業戦略のなかに飲食や宿泊などの食関連事業を組込み、農水産業との直接連携を試みるなど、その独特な挑戦が今後どう発展するか安易に予測することはできないが、コスモス薬品とはまた違った懐の深さが今後の全国展開にどんな効果と影響をおよぼすかが興味深い。店舗だけを見るとその管理レベルと業態に小さくないばらつきがあるものの、競争の手段を単に販売力と店舗に限定せずに、少子、高齢化で縮小が確実な消費市場をコントロールするトライアルのユニークさに小売業関係者が注目する。

足下の九州ではこれから何が起こるか?
ロピアの好調が物語るもの

 関東から関西を経て、福岡に進出したロピア(高木勇輔代表・神奈川県川崎市)が今のところ順調だ。博多駅のヨドバシ4階に出店後、たて続けに新宮、筑紫野、北九州に開店した。いずれの店も開店当初は入店制限をするほどの集客で、若い客層を中心に出足は好調だ。何組かの若い客から「コストコみたい」との声を聞く。とくに大きなピザや大容量の生鮮食品パックにコストコのイメージがあるようだ。家族連れや外国人客が多いのもコストコに似ている。

 オープンに際しては牛乳などの乳製品や豆腐、納豆などの日配品の価格の安さをアピールしている。精肉部門は祖業が精肉だけに幅広い品ぞろえと安さを訴える工夫が随所に見てとれる。生魚部門は「日本橋魚萬」と専門テナント風に売場づくりをしているほか、青果や総菜も同じような表現でその専門性を訴える。客層は若い家族連れを中心に通常のスーパーマーケットに比べて男性客の姿も目立つ。

 地元関東から関西に出て、知名度もなく、食文化も異なる九州へ矢継ぎ早に進出をはたしたロピアだが、今のところ地元消費者から違和感なく受け容れられている。直接競合するのはルミエールやトライアルといったいわば同タイプの業態だろうが、隣接する両社の店舗はロイヤルティーの高い固定客の支持もあり、今のところ大きな影響は受けていないようだ。ただ、精肉や青果、総菜といったところは10%前後の影響は避けられないだろう。

 ロピアの問題は、清算が現金のみということと、九州では単価的に売りにくい高質牛、なじみの薄いマグロといったところをどう売っていくかだ。さらに果物などの日持ちのしない商品の大パックも苦戦必至のはずだ。最終的には、オープン時の安さのアピールをどこまで続けられるかということになる。

 従来型と違う異質化を狙ったワンウェイに近い大型の明るいイメージの店内は同タイプのルミエールやトライアルへの影響だけでなく、マルキョウなどの隣接する既存型のスーパーマーケットへの影響も小さくない。そんな意味ではロピアの進出が福岡の小売業界に広げる波紋は大きい。

(了)

【神戸 彲】

(前)

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