2024年05月16日( 木 )

「ウッドチェンジ」へ、山佐木材のCLT供給網(前)

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山佐木材(株)
福岡営業所所長 宇田 光一郎 氏

山佐木材の本社工場
山佐木材の本社工場

 建築物の「ウッドチェンジ」(木造・木質化)の動きが、公共だけでなく、民間の建築物、なかでも中高層ビルにもおよぶようになってきた。その構造体として主に活用されているのがCLT(※)と大断面集成材で、山佐木材(株)は九州を代表する構造用集成材メーカーである。そこで同社の福岡営業所所長・宇田光一郎氏に、中大規模建築物の木造・木質化の現状や、今後のさらなる普及に向けた課題などについて話を聞いた。

※CLT=Cross Laminated Timberの略。JAS(日本農林規格)では「直交集成板」と呼称。ひき板(ラミナ)を繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料

万博の大屋根リングにも部材を供給

構造用集成材の加工場の様子
構造用集成材の加工場の様子

    ──御社はこれまでに多くの木造・木質建築物の建設に貢献しています。

 宇田 当社は1991年に全国で初となるスギ構造用集成材でのJAS認定を受け、2014年にはCLTのJAS認定も取得しました。それらの認定に基づく高度な品質管理の下、スギ・ヒノキを中心とする製材から乾燥、仕上げ加工、構造用集成材とCLTの製造まで一貫生産を行っています。施工現場での建て方を支援する体制を整えているのも特徴の1つで、これを行っている企業は全国的にも多くはありません。

 九州だけでなく全国で、これまでに1,500件超の公共・民間施設に構造用集成材やCLTを提供してきましたし、今後はさらに実績が拡大できるものと見ております。たとえば来年開催される大阪万国博覧会の会場シンボルとなる木造建築物「大屋根リング」についても、当社は多くの同業者とともに構造用集成材を製造、納入するために動いています。当社では東京ドーム2個分の広さの生産施設を有していますが、昨年から工場は隔週で土曜日も稼働せざるを得ないなど、繁忙な状況となっています。

九州でも徐々に増える建築事例

山佐木材の工場で生産されたCLT
山佐木材の工場で生産されたCLT

    ──近年は、とくにオフィスビルなどの中高層建築物でCLTが用いられるケースが増えています。

 宇田 九州において当社がCLTを供給した事例では、佐賀市にある松尾建設(株)さまの本店ビル(6階建、18年4月竣工)や、福岡県篠栗町のエフコープ生活協同組合さまの本部事務棟(4階建、22年12月竣工)などがあります。これらは鉄骨造とのハイブリッド構造で、床材などにCLTが用いられています。構造体全体にCLTが用いられた事例(壁式構造)としては、昨年2月に福岡市中央区警固2丁目で竣工した(株)竹中工務店さまの独身社員向け社宅「警固竹友寮」(5階建)があります。このほか、福岡市においては天神ビッグバンの「天神イムズビル」建替えプロジェクトが進行していますが、新しい建物(RC造・地上20階建)の外装材に当社を含む鹿児島産のCLTが使われる計画です。

「竹友寮」の外観
「竹友寮」の外観

    九州ではまだCLTによるプロジェクトや施工事例がそれほど多くはありませんが、首都圏などでは都心部、地価が高い立地において今、当社を含むCLTメーカーが絡む木造・木質ビルのプロジェクトがいくつも進行していますし、竣工した事例も数多く見られるようになりました。その背景には、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」などの脱炭素社会実現に向けた法改正などを受け、国がCLTを積極的に推進していることのほか、木造・木質化された建物によるカーボンニュートラル実現をしようという取り組みについて、建築主が社会的な企業の評価向上を期待する部分が間違いなくあります。

施工の標準化も課題

 ──CLTによる建築物は、どのような工法による建物なのでしょうか。

 宇田 当社の工場では「マザーボード」と呼ばれる幅2m×長さ4m×厚み36mm~30cmのCLTパネルを製造し、それを設計寸法に加工、供給しています。それらは金物や接着剤を用いて現場で接合され、構造体が組み上げられていきます。先ほど述べた松尾建設さまの本社ビルは、同社の特許技術による金物接合によるものです。エフコープさまの建物は松尾建設さまが施工しましたが、これは無特許技術による金物接合です。CLTの建築方法にはそうした違いがありますし、そもそもCLTの大きささえ標準化が行われていません。ちなみに、日本で最も大きなものでは3m×12m×30cmのパネルを製造している企業もあります。

 このようにパネルの大きさや接合方法が標準化されていないのは、ビルのように上層階に伸びていく建物の場合、耐火性能の確保の仕方や、異なる天井高で建設されるなど、建物の施工方法にさまざまなバリエーションがあるからです。同じ建物を大量に建設するのであれば、CLTによる建設手法も標準化しやすくなるのですが…。この標準化、規格化の問題はCLTや集成材に限らず、中大規模木造建築物の木造・木質化における大きな課題といえます。

(つづく)

【田中 直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:有馬 宏美
所在地:鹿児島県肝属郡肝付町前田2090
設 立:1979年4月
資本金:4,000万円
TEL:0994-31-4141
URL:https://woodist.jimdo.com/

福岡営業所:福岡市中央区今泉2-3-16 紙久ビル402
TEL:092-600-9310
FAX:092-600-9311

(後)

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