2024年04月27日( 土 )

ホワイトハウスの「権力闘争」のさなかに起きたシリア攻撃(2)

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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦

 「ニューヨーク・タイムズ」が報じているが、このところ、バノン戦略官と、トランプの娘・イヴァンカの夫である、財界人出身のジャレッド・クシュナーの関係が極めて悪化していたようだ。そして、この記事ではバノンはシリアへの軍事攻撃に反対で、クシュナーは介入に傾いていたというのだ。クシュナーは、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官とトランプを最初に引き合わせたユダヤ人で、シオニストの財界人ネットワークに人脈がある。キッシンジャーからも直接外交について指導を受けているようだ。今週前半には、統合参謀本部議長と一緒にイラクを電撃訪問したと報じられたほか、中国の習近平国家主席の歓迎晩餐会でも、知米派の楊潔篪国務委員(副首相)のカウンターパートとして出席していた。
https://www.nytimes.com/2017/04/06/us/politics/stephen-bannon-white-house.html

 中国、中東の他、メキシコとの外交問題での調整も行っており、さらにはホワイトハウスの機能の効率化を担当するイノベーション室長に最近ポストを得た。マイク・フリン国家安全保障会議議長がロシアとの接触問題で更迭されたあと、クシュナーは急速にホワイトハウスで権力を得ており、トランプ大統領が躓いた3月末での健康保険法撤廃法案での議会工作のさなかには、コロラド州でイヴァンカ夫人とスキーに興じるなど、どこかの国の首相夫人と似たようなおバカをやらかしてトランプの不興を買ったが、トランプにとって最も頼れる側近であることは間違いない。オバマケア撤廃法案の採決でホワイトハウスが議会工作に失敗したのは、バノンが議会メンバーを呼びつけて、「賛成しないのなら出て行け」と恫喝したことがマイナスに働いたという認識をクシュナーは持っている。

 オバマケアに代わる健康保険の政策はトランプケアとかライアンケアと呼ばれているが、バノンが失敗した後は、ライアン下院議長、プリーバス首席補佐官、そしてペンス副大統領といった議会工作のプロが再度交渉することになっている。

 オバマケアは共和党からは非常に評判が悪いが、実際は2月末の世論調査で54%の支持を得ている。オバマケアは保険料が高いことが問題になっているが、トランプケアを実施することで、2,400万人の無保険者が生まれるという予測もでており、トランプを支持した従来は投票しないか民主党に投票してきた層は、この皆保険の維持を強く求めているのだ。
http://www.pewresearch.org/fact-tank/2017/02/23/support-for-2010-health-care-law-reaches-new-high/

 オバマケア撤廃に共和党が動き始めた途端に、全米の共和党議員の支持者集会に撤廃反対の有権者が殺到した。これに恐れをなした共和党の大多数の議員は、オバマケアの重要な部分を残すように求めているが、この主流派に批判的なのがリバータリアンのような小さな政府原理主義者たちだ。リバータリアン派は、チャールズ・コークという財界人の指揮下でオバマケア撤廃を「とにかく財政赤字拡大反対」という立場から強硬に主張しており、リバータリアン派と財政問題では意見が近いティーパーティ派の勢力が、下院で「フリーダム・コーカス」という議連を結成して、トランプの健康保険法改正案は手ぬるいと批判している。この32人の議連がライアン下院議長提案のトランプケア案を拒否し続けた。民主党はオバマケアに手を付けることは全く受け付けないので、結局は共和党首脳部は下院での多数派工作に失敗して、採決を断念したわけだ。
http://edition.cnn.com/2017/03/22/politics/kochs-reserve-fund-health-care/

 今後は、ペンス副大統領らは、オバマケアで実施されてきたサービスの実施を各州に委ねることで、保守的な共和党議員の支持を固めて、民主党の支持を得て超党派で改革するのではなく、共和党独自でオバマケアを改正することを目指すようだ。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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