2024年04月27日( 土 )

シリーズ 側近の目から見た高塚猛(4)~敵にお酢をかければ、『素敵』になります!

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夢や目標、ロマンといった「実感」からスタートする

 ――覚悟の人ですか。高塚像が見えたような気がします。さて、高塚さんと言えば数々の名言が有名です。最後に、皆さんの心に残っている名言、読者の明日に繋がる名言を聞かせて頂けますか。

 安田 高塚さんの名言は、経営者にありがちな、論語由来や聖書由来、または織田信長とか歴史上の偉大な人物由来の借り物ではなく、ほとんどが自分で考えだしたものです。

 私は、『真実には2つの真実があって、1つは「事実」という真実、もう1つは「実感」という真実である』という言葉が好きです。

高塚 猛 氏

 リーダーは「事実」ではなく、「実感」で語れということを学びました。「事実」は確かに正しいかも知れませんが、全て過去を引きずっています。「未来からの贈り物」を受け取ることができません。これに対して、「実感」という真実には、いいかげんな部分、夢みたいな部分も含まれています。正確性は欠いているかも知れませんが、人間が肌で感じること、心から思うことが「実感」です。
 「実感」から真実を導き出し、真実から逆に「事実」を作っていくプロセスがこれからの経営には求められます。つまり、夢や目標、ロマンといった「実感」からスタートし、そこに具体的な数字を入れて、その数字を実現するというものが経営そのものというわけです。リーダーは何よりも先に「実感」を真実として部下に伝えるべきと言われ、高塚さんはそれを実践していました。

 もう一つ、『ノウハウ(know-how)より、ノウフー(know- who)の方が大事』という言葉も、多くの人を育てた高塚さんらしい言葉です。工業化が重視された時代は、ノウハウ、技術力が企業の力でした。しかし、今日の情報社会では、ノウフー、誰を知っているかという人的つながりが企業力の差になります。その意味でも、エピソードになりますが、高塚さんは携帯を常時2台持ち、その中には2,000人以上の個人番号が登録されておりました。しかも、商談中でも、講演中でも、常時携帯はONの状態であったのです。

選手の育成とビジネスを融合した究極の言葉だと思う

 宮田 私は現在スポーツビジネスに関わっています。一番好きな名言は『見てあげることが最高の教育、見られることが最高の学習』です。これは、スポーツビジネスにおける選手の育成とビジネスの融合を顕した究極的な言葉だと思っています。1999年のダイエーホークスは、お盆を過ぎても失速せず、日本一に輝きました。それは、さまざまな経営戦略を実行することによって、多数のファンが実際に福岡ドームに足を運んで下さり、優勝の期待を込めて選手を見て下さったからに他なりません。2軍戦で福岡ドームが満員になったのも、その延長線上にあります。自分が今スポーツビジネスで重要な仕事ができているのは、すべて高塚さんの教えのおかげだと思っています。人生の恩人です。

お茶(茶道表千家同門会岩手県支部長)やお花に造詣

 名言ではないのですが、『大切なことをするために、正しいことを捨てる勇気』を私は高塚さんから教わりました。活け花を例にとります。基本的に花は全部美しいものです。しかし、美しいからと言って、全部活けてしまえば、活け花にはなりません。活ける花が美しく、捨てる花が美しくないわけではありません。残花(捨てた花)を愛しむ気持ちを持ち続けることによって、組織の改革は可能なものになります。余談になりますが、高塚さんはお茶(茶道表千家同門会岩手県支部長)やお花にも造詣が深かったと聞いています。

500人、1,000人を掌握できる上級管理職などいない

 大西 今まで2人が挙げた名言は全て私も好きです。私は読者、特に経営者の皆さんに役立つと思われる名言「リーダーはこの4つだけをしっかり実行すればよい」を挙げます。1つ目は、「中間管理職を信頼すること」、2つ目は、「守ってあげること」、3つ目は、「教育という目的以外で叱らないこと」、4つ目は、「評価してあげること」です。1人の人間が掌握できる人の数は、知れています。500人や1,000人を掌握できるトップや上級管理職はいません。上級管理職ほど、他の人(中間管理職)の力に頼る他ないのです。根本に信頼がない組織は、やがて衰退していきます。信頼を築くために叱るなら、中間管理職も納得するはずです。

 最後に個人的に記憶に残っている名言を2つ挙げます。1つは21世紀幕開けの時に高塚さんは『21世紀は愛と希望と勇気だ!』と言われました。これから、世の中はデジタルで色々なものごとが決まり、社会でも、職場でも、世知辛く、生き辛くなっていきます。ルールや規則に縛られて窒息死しないためにも大切な言葉です。

徒党を組むのではなく自立と連携が必要になります

 もう1つは、私が高塚さんから聞いた最後の名言になります。2005年、ダイエー福岡3点事業が解体され、従業員がバラバラになった時です。『これからは、皆バラバラに散っていくのですが、自立と連携が大切です』と言われました。その心は、皆が徒党を組むのではなく、それぞれが別の職場に行っても、自立して活躍して欲しい。しかし、何かあった時には、福岡で経験したことを思い出して、連携・一致団結して事に当たって欲しいというわけです。

高塚さんは「拡張自我」作りの天才だったと思います

 安田 高塚さんは、「拡張自我」(その人を形成することとなる、家柄、学歴、会社、職業など)作り、すなわち「従業員の心を1つにしていく」天才だったと思います。高塚さんと働いている時、従業員は皆、「『私の福岡ドーム』、『私のシーホークホテル&リゾート』、『私のダイエーホークス』」と誇りを持って、活き活きとしていたように思います。

 本日は、お忙しい中、お集まりいただきありがとうございました。あらためて、高塚猛さんの冥福をお祈り申し上げます。(合掌)

(了)
【金木 亮憲】

 
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