2024年04月26日( 金 )

アサツーディ・ケイが筆頭株主の英WPPの排除に成功(後)

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 国内広告代理店3位のアサツーディ・ケイ(ADK)と筆頭株主で世界広告最大手の英WPPとの壮絶バトルが決着した。ADKがホワイトナイト(白馬の騎士)に招いた米投資ファンドのベインキャピタルがWPPを撃退。ADK=ベイン側の劣勢が伝えられていたが、土壇場での大逆転劇となった。

WPPが一転してTOBに応じた理由

 事態は急転。11月21日、ADKのTOBについて、ベインとWPPは合意した。WPPはベインが提示した買い付け価格1株3,660円でTOBに応じる。TOBが成立した際には、WPPは東京地裁に起こした仮処分の申し立てや、日本商事仲裁協会に申し立てた仲裁を、いずれも取り下げる。

 WPPはこれまで株売却に応じない姿勢を鮮明にしていたが、一転して、株売却に応じる。WPPはなぜ、振り上げた拳を下ろしたのか。今回のTOB劇の最大のミステリーである。

 日本経済新聞電子版(12月8日付)は、「ADKへのTOB、ベイン完勝の舞台裏」の記事で、勝負を決めたのは19年前の契約書だったと報じた。

〈一方が提携解消を通知したら(嫌でも)1年後に株式を市場で売却しなければならない――。WPPとADKが資本業務提携を結んだ際の契約書にはこんな取り決めがある。
 (中略)TOBが成立しなかった場合、プレミアム期待がなくなるため株価は下落。1年後に強制的に手放さなければならなくなった時、株価がTOB価格より上がっていることはない。(中略)TOBが成立した場合、需給の悪化により株価はさらに下落する。経済合理性で判断すれば、WPPはTOBに応じざるを得ない〉

 さらに、資本業務提携の契約により、WPPはADK株を25%以上に買い増せない決まりになっていたという。WPPはベインに対抗してTOBができない。契約書が決め手になって、ベインはWPPを断念に追い込んだというわけだ。M&Aの表と裏を知り尽くした百戦錬磨のベインならではの凄腕だ。

ADKはなぜWPPを排除したのか

 それにしても、ADKはなぜ、約20年間提携関係にあったWPPを排除することにしたのか。米通信社ブルームバーグ(10月18日付)のインタビューで、ADKの植野伸一社長は「われわれはWPPの子会社ではない。彼らが自らの利益を優先してくるところが大きかった」と、提携解消を決断した理由を明らかにした。これは異常な高配当を指している。

 ADKがWPPに服従する転換点となったのが10年12月期決算。最終赤字に転落した。以降、WPPの意向が強くなる。11年12月期決算以来、異常な高配当を支払ってきた。

 それまで1株あたり年間配当額20円だったのが、11年期は特別配当を加算して109円の高配当。14年12月期に至っては、特別配当526円を実施し配当金は571円。配当性向(純利益から配当に回す割合)は30%程度が普通だが、14年期の配当性向は646.5%。稼いだ純利益の6.5倍の配当を支払った。
WPPはADK株を1,033万株保有。ADKが11年期から16年期までに支払った1株あたりの配当金は1,280円。WPPは132億2,240万円を手にした。ADKは最終利益以上の金額を配当するために会社の資産の切り売りに追い込まれた。

 植野氏は社長に就任した翌年の14年からWPPとの資本提携に解消に向けて協議を進めてきたが、同意できなかった。WPPは徹底抗戦する植野切りに動く。3月29日に開催したADKの定時株主総会で植野氏の再任に反対票を投じた。植野氏の賛成率は59.49%。かろうじて再任された。

 土俵際に追い込まれていたADKはホワイトナイトに招いたベインの手を借りて、やっとWPPのくびきから解き放されたのである。

(了)
【森村 和男】

 
(前)

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